人生って、選択の連続です。選ばない、何もしないというのも含め、自分の行動や立ち位置を選んだ積み重ね。その軌跡を振り返って、人生と呼ぶのです。

選択をするその時々に、結末は誰にも分かりません。間違いないといくら確信しても、『その後』が訪れてみないと分かりません。
主人公キャラウェイ夫人は、人生の岐路に立ち戻っていきます。それは『その後』からの振り返り、答え合わせ。

でも結果を元にして見て行っても。これは良かった、これはこうすれば良かったと採点していっても、当の夫人にやり直しは利きません。
そんな答案を教授に出したところで、再試の機会などありません。

ですが、評価を出来る観測者は居ます。夫人の人生を垣間見て、素晴らしいとか、面白いとか、呑気に言える人は居ます。
それは読み手であるあなた。もちろん私もですが。
キャラウェイ夫人の人生に、あなたはどんな評価を下すでしょう。
私ですか？
それは――

どことなく懐かしい文章のリズム、それでいて軽やかな、淡々とした語り。物語が進むにつれ、ゆっくりと空気が瑞々しくなっていく様に引き込まれる。そんな、優しくて暖かい、素敵な短編小説。

人生は優しく、哀しく、嬉しく、切ない。
…そして彼女は愛すべき家へと帰る。

私はこの短編作品の著者に拍手を惜しまない。
稀有な作品である。

読み終わって、ソファで寝ている30年連れ添った夫の顔を観に行き、ふと不安になって起こしてしまった。
「なに、どうしたの?」
「すごくいい小説を読んだのだけど、不安になって起こしたの」
「じゃ起きていようか」

本当に美しい小説をありがとうございました。
美しすぎて婆には涙を拭くタオルが必要です。

前編は童話的。後半は映画的。
話の内容は非常に王道ど真ん中だけど面白ければそれで良いのです。
逆に王道で面白い話を書けない人間が小手先だけで捻っても意味がない。
面白い設定ではなく、是非とも本作のように面白い「おはなし」を書けるようになりたいものです。