花火の終わり

 サキハラは気の利かない男と、パッとしない女を玄関先で見送った。悪くない花火大会が終わった後、何故かあのカップル達と付き合ってる男の家で酒を飲む事になったのだ。男の方は悪くない顔立ちと性格が伺えたが、女の方は駄目だ、とサキハラは思った。気が合わないタイプだ。


 今日の夜、花火が自分だけの為に上がるかどうか、サキハラは自身への賭けをしていた。恐らく、99.9999%花火は上がらない。中学生如きが、一体何をどうすれば花火を上げられるのか。でも、もし上がったら。私はあの男の子と本当に付き合おう。他の誰でもない私自身を、彼だけに捧げよう。自分に正直に生きよう。


「なあ、わかったか?」

 サッカー部の付き合ってる男が下衆い顔をしてサキハラに聞いてきた。

「あいつ、お前のパンツばっかり見てたな」

 どうやったら人はここまでゲスくなれるのだろう、とサキハラは訝った。


 ピンポーン

 家のインターホンが鳴った。

「ここでサプラーイズ」

 男が言った。


 ドアを開けると、見覚えのある水泳部の男と、もう二人程屈強な身体をした男達が入って来た。アメフト部と、柔道部の男だ。


「お前が大好きな、身体だけが取り柄の頭空っぽな男達だ。今日はとことん、お前を■■まくってやるぜ。覚悟しな」

 ゲヘヘ、と男達が笑った。シマダ君、とサキハラは思った。男達の太い腕がサキハラを掴んだ。


 その後は狂乱だった。サキハラは気が狂う寸前まで、男達を貪った。タガはとうに外れてしまっていたのだ。私は動物でしかない。ただ単に、ヤって、ヤって、ヤりまくる。その後のことは知らない。豚にでも食われろ、糞が。


 遠くで花火が上がる音が聞こえた。

「何で泣いてるんだ?」

 サキハラは全てを終え、乱れたベッドのシーツの上で横たわっていた。

「最高だっただろ?」


 花火が空を駆逐する音が何度もする。

 サキハラはもうこういう事はやめようと思った。

 金輪際、こういう連中とは手を切るのだ。

 そして、私は恐らく教師になるだろう。

 あらかじめ決められた運命のようなものを、一度くらいは信じてみても良いと思った。


 サキハラは生まれて初めて自分の為にだけ泣いた。

 未来と、自分だけを求める遠い花火の雷鳴にも似た音の為に。


(終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空気の中に変なものを 江戸川台ルーペ @cosmo0912

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説