3-4 翼人編3
――――翌日。
カトブレパスが私のアパートを訪ねて来た。ベランダの窓から。
「どうしたの、夏値は?」
「わしだけじゃ。」
「要件は?」
「二つある。」
そういうとカトブレパスは勝手に部屋に上がり込んだ。
人間の常識が召喚獣に適応されるとは思わないが、私の部屋はアパートの二階にある。カトブレパスはどうやって上がってきたのだろう。そういう疑問は残った。まぁこれについては、体格差が何倍もある気を失った人間を運んだ謎と同じなのだろう。
私のそんな疑問には触れられることもなく、カトブレパスは本題に入った。
「一つは暴走している召喚獣について。
実は、わしの検知した召喚獣は昨日のセイレーンを含めて三体おった。それが、今、改めて探知し直すと、一体だけになっておった。」
「どういうこと?」
「わしら以外の誰かが、召喚獣を仕留めた。そういうことじゃろう。」
まさか、
「マサカ?」
いや失礼。
「ありえぬ。使い魔であるゴーレムは理科世界におる。小僧は変身できんはずじゃ。」
「じゃあ、私たち以外にも魔法少女っているの?」
カトブレパスとここまで話をして、朝からずっと眠っていたケットシーが目を覚まし会話に参加する。
話に参加したのが途中からなのに、内容を理解出来ているのは私の思考を読んだからである。
「この街には君たち以外に魔法少女はいないよ。」
「何故わかる?」
「僕が管理局から容疑をかけられたのは、アレクサンダーの一件の他に、この街で次々と契約者の更新をしていたからなんだ。」
今年に入って私で三人目だったか。
その前に何人の魔法少女がいたのかわからないが、八年間マジデ据え置きのカトブレパスとは明らかに違う。
「アレクサンダーの目的というか犯人の目的が、強大な力を秘めた存在と魔法契約して、物質の生成をすることだと管理局の方も思っているみたいでね。
新規の魔法少女の登録認証は今、管理局で止められているんだ。」
「何じゃと?!」
初耳だ!
「そんな大事なこと、どうして黙ってたのよ?!」
「いや、みんなのいるところで説明しようと思ってたんだけど、マジデが休業する話になっちゃったから、言い出しにくくてね。」
申し訳なさそうに首を低くしてケットシーはそう答えた。確かにマジデがさらにヘコむ要因だ。
ちなみに魔法少女に休業という概念はなく、マジデはあくまでも自発的に変身をしないというだけなので、復帰のときに再契約などの手続きは不要だ。(そもそも契約解除になると魔法使いの記憶を失ってしまう。)
「まぁなんにせよ。わしらの他に魔法使いがおることは間違いない。魔法少女ではない知識の探求者、賢者がな。」
暴走した召喚獣は倒されたのだから。回収した元素の鍵はその魔法使いが持っているだろう。
果たして敵か味方か?
「それともう一つは、わしのことじゃ。
マジデの勉学の邪魔になっても困るので、わしは一度、理科世界に戻る。
ケットシーの件や管理局の方針の確認もせんといかんからの。
それで、今日はその挨拶を、と思うてな。」
ほほう。別れ際に挨拶とは、律儀な性格のカトブレパスらしい。
しかし、これは好都合だ。
「マジデのこと、感謝しておる。
わしはあの子の優しさに甘え、魔法少女が人生の負担になることを知りながらも宿命を背負わせておったのかもしれん。
お主はその点に向き合い、あの子のことを真剣に考え、答えを出した。その意志の強さ、やはり本物じゃ。世話になった。」
カトブレパスは照れ臭そうに顔を背けてそんなことを言う。
「うんうん、もっと褒めると良いよ。」
「ケットシー、お前には言っとらん。」
「あはは。」
「ただ、後先考えずに作戦を実行するソレは、もう少し考えるべきじゃとわしは思うがの。」
「・・・気をつけます。」
「では、これで・・・。」
「あ、待って。カトブレパス。」
「ん?」
「理科世界に行くっていうんなら、オーディンに渡してほしいものがあるんだけど・・・」
私はパステルカラーの可愛らしい便箋をパタパタと振りながらそう言った。
宛名にはオーディン様。
可愛く丸文字で書きました。
「何じゃこれは?」
「ラブレター。」
カトブレパスが興味なさそうにそっぽ向く。
「冗談に決まってるでしょ。」
「無駄を省いて簡潔に述べよ。」
ハイハイ。これだから頑固ジジイには冗談が通じない。
「まったくだね。」
「なんじゃお主ら?」
私はケットシーと顔を合わせて小さく笑った。
「これは魔法少女になれない少年の暫定対応と、私が考案した大発明の設計図。」
少年と契約をしているゴーレムはシステム的に問題がないか、管理局が様々な検証試験を行っている。ただしそれはあくまでも召喚獣ゴーレムの話。前代未聞の“少年の魔法少女”であるマサカズくんの対応は管理局も決めかねている状況だった。変身できないマサカズくんが暴走をすることはおそらくないと思うけれど、それでも放置しておいたら何が起こるかわからない。
それに、マジデの支援がなくなった状況でこの先、私が一人で立ち向かうのはどう考えても無謀だ。だから、どんな反則技であろうと使わないといけない。その一つがこのプランなのだ。
「・・・。」
カトブレパスは訝しげな表情で手紙を眺めたが、中身を確認することはなく、提げているカバンに手紙をしまいこむ。
「わかった。オーディンに渡そう。」
そう言うと、初夏の風が吹いてアルミサッシの窓を揺らし、私は思わず顔を覆う。そして、再び目を開けるとカトブレパスはいなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます