0章 マジカルマイン編
義務教育において小学生が中学校にその場を移す際、追加される教科“英語”
最近は幼児教育や小学校でもその基礎を導入し始めているのかもしれないが・・・。
とにかく、
英語の授業ではじめに習うのは名詞の英単語。身の回りの様々なモノを英語に置き換える。リンゴ、みかん、犬、猫。そして、次に自分のことを指し示す人称代名詞「I,My.Me,Mine」と続くのではないだろうか。
このうちの所有代名詞、Mine.意味はもちろん私のモノ。しかし、実はこれ、スペルが同じで複数の意味を持つ単語なのだ。
Mineの他の意味というのが・・・
鉱山や鉱脈の地形。そのまま直接、鉱物資源を指したりもする。他動詞なら採掘や掘る。といった炭鉱関係の意味。
登山なら地表面の裂け目を指す。
そして、地雷。
my mine と並べると私の地雷。
なんとも中学生が好きそうなネタではないだろうか?
しかしそんなことを知る由もない“彼女”は、自分に付けられたその名前を可愛いと気に入っていた。
マジカルマイン。それが彼女の名前。羽の生えたトゥーシューズ。白いタイツにチュチュのようなミニ丈でふんわりとしたドレス。まるでバレリーナのような出で立ちである。
その手には小さな鍵が一つ。
「百鬼夜行がうごめく浮世。夜のトバリが下りる刻、闇夜を照らす碧きサムライ。
マジカルマイン、推して参る!!」
暗記した前口上を言い終え、満足した様子でマインは右手を突き出し、目を閉じ、自らの【理科】を使用した。
「バイタル、ハイブースト。イグニッション!!」
鍵から放たれた淡い光がマインの身体を包み込む。
マインは“魔法の鍵”を触媒に、自らの身体能力を自在に操る生物学の使い手。一般的なイメージと少し違うが、いわゆる魔法少女というヤツだった。
淡い光はマインの筋繊維一本一本にしなやかなバネのチカラを生み出した。
そして・・・
「そぉおりゃぁああっ!」
向かってくるサラブレットを一本背負い。いや、正確には首筋をつかんで投げたのだが、とにかく、シャレにならないほどの体格差を跳ね飛ばし、マインの細腕が“角の生えた馬”を押さえつけて動けなくする。
ヒヒーンッ!!
人知を超えた驚異の身体能力を得るという彼女の理科(魔法)は、今日も相手を圧倒し、
「召喚獣ユニコーン、討ち取ったりぃ!!」
見事に使命を果たしていた。
「・・・。」
「何?」
「さっきの戦国武将みたいな口上、何?」
肩口にいた小さな黒猫、彼女の使い魔がそうつぶやいた。
「えへへー。いいでしょー。
名乗りも挙げずに戦いを仕掛けるなんて“ブシドーの精神”に反すると思って、昨日考えたんだ。」
マインはそう言うとポケットに入れていたパステルカラーのノートの切れ端を開いて見せた。可愛らしい女の子の字で、先ほどの勇ましい前口上が書かれている。
「昨日の夜、何してるのかと思ってたんだけど、まさかそんなの考えてたとは・・・。
だいたい夜のトバリや月夜がどうこう言ってたけど、まだ夕方だし・・・。」
「細かい事はいいでしょ別に。 今、若い世代ではブショーが大ブレイクしてるんだから。」
「若いって・・・マイン、小学生でしょ。」
「何言ってるの?私ももう十歳。数字的にはキッチリ半人前でしょう。」
二十歳、成人を一人前と考えて、二十分の十・・・・だから半人前。そういう理屈である。
「それに人間、十年も生きてりゃイロイロあるんだから・・・。アブラゼミなら一生モンだよ。」
「一人前のヒトはここでアブラゼミの話はしないと思う。」
「いーの!」
テレビや週刊誌で見た情報を口にする。はたしてこれがイマドキの小学生と言えるのかどうかは疑問であるが、知識先行のオマセな子ども、魔法少女マジカルマインはそんな性格だった。
ユニコーンは光に包まれその姿を消すと、地面には黒く錆びた鍵が一つ残されていた。
「ホイ、お役目しゅーりょー。」
マインが鍵を拾い上げるとその鍵は、アルカリ金属共通の原色、銀白色に変わる。さらに使い魔の黒猫がそれに触れると小さな光が鍵を包み込んだ。
「1族、アルカリ金属を確認。認証登録、マジカルマイン。」
鍵の回収。それがマインの、現在の魔法少女の任務だった。
「これで二本か〜。」
「順調だね。」
「えぇ〜。この鍵、たしか20本近くあるんでしょ?」
「18本だよ。」
「まだ全然じゃん。
私としては一気に集まってくれたら“ラク”なんだけどなぁ〜。」
「・・・。」
相手を圧倒している現状がその発言を生み出した。マインの魔法である生物学はそれほど強力であり、かつ実用性に富み、使命を果たすにはうってつけのチカラだった。
(飛び道具ではないので魔法少女らしくはないが・・・。)
しかし、この魔法・・・細胞の活性化を伴うため、気力の他に体力も消費する。
「はぁ~・・・・・魔法使ったから、おなか減っちゃったなぁ~。」
そのため、連戦や長期戦には向いていない。
このように魔法とは、無尽蔵に使える未知で都合の良い特殊能力ではない。何かを消費してその対価を得る万物の基本、エネルギー保存則がキチンと成立する。現実世界における等価交換の原理原則とは、とてもよく出来たシステムなのである。
「ん〜、」
大きく伸びをするマイン。
帰りに寄り道をするつもりである駄菓子屋のメニューを使い魔と相談しているその姿を物陰から気配を消して伺っているものがいた。
そのことにマインは気がつかない。そしてこの時は契約者マインの消耗により魔力供給の弱まっていた使い魔も、その存在に気がついていなかった。
ここは街はずれにある登山口。小高い山の上に戦国時代の出城があったという記録が残っているが、すでに建物の痕跡は城の基礎と土塀を残すのみ。
歴史上さほど重要な城ではなく、観光名所にもならず、専門機関の調査もあっという間に終わってしまった。登山としても標高の低さ、いまひとつの眺望、街からのアクセスの悪さというマイナス要因からあまり人気が無い。
つまり、
周囲に人影無し。
ユニコーンを討伐するためにわざわざそういう場所にマインが誘導したのだ。多少の騒ぎがあってもそれが目撃される確率は低く、野次馬たちが現場に到着するまで時間を有する。ここはそういう現場だ。
そのことを知ってかどうかは分からないが、“その存在”は物陰から息を殺し、自ら持つ鍵のチカラで【理科】を使用した。
シュウウウ
「あれ?霧かな。」
湿度や気温に特別な変化のない春、それによく晴れた日の夕方に霧など出るわけもない。
これは気体ではなく、固形物の粉末なのだ。
そのことがわかってようやく、使い魔が事態に気がつく。
「マズイ!敵だよ!」
「えっ?!」
一気に集まってくれた方が良いと、ついさっき言ったことが現実になり、マインはうろたえた。マインの能力には先述の欠点もあり、何の準備も無しに連戦となると分が悪い。
「今来なくて良いってばー!」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」
作戦や相手の位置、そのほか状況確認を何一つ出来ぬまま、周囲を取り巻いた霧状の白い粉は、突然眩い光を放ちマインの視界を真っ白にした。
「うわっ?!何これっ。」
閃光は一瞬だったが、目のくらんだマインに対して『ソイツ』は突進攻撃を仕掛ける。
高速移動からの体当たり。
「うぐっ!」
「マイン!!」
その衝撃に小学校低学年、なおかつ標準よりも瘦せ型のマインが耐えられるはずもなく、盛大に数メートルほど吹き飛ばされ、後ろの土塀に打ち付けられた!
自身の生物魔法が細胞分裂を促し、ダメージを最小限にとどめるが、それでもマインの背中には激痛が走る。
「イテテテ・・・これが噂の壁ドンか?」
注:違います。
マインの目はまだ見えない。かわりに使い魔が相手の姿を捉える。
「おのれ・・・不意打ちとは卑怯なり。」
「マイン。あれは召喚獣・・・。」
「名前なんて今はいいから!それより、」
今は相手の正体よりも次の攻撃に対する暫定的な対処が急務だ。
だから、「どっち?!」
「正面!
来るよ!!さん・・・にぃ・・・いち!」
「!!」
視界がまだぼんやりとした状態でなんとかマインは鍵を取り出して魔法を使用した。
「ジ、ジャンプ、ブースト・・・イグニッション。」
魔法はマインの太ももとふくらはぎの筋繊維を限界まで引き延ばす。そして、致命的な傷を負いながらも、残った魔法力をすべて跳躍力へ付与し何とかマインはこの場を逃れた。
魔法少女を襲ったもの、それは・・・・。
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