2-7 アレクサンダー編7
張り詰めていた緊張感を少し緩めかけたところで、私の肩にいるケットシーの声が聞こえた。
「マヂカ、ダメだ!
マサカの暴走は治まったけど、アレクサンダーの石化は止まってない!」
「なんですって?!」
もう本当に勘弁してほしい。
魔法陣から新たなマグマが噴き出しているわけではないが、アレクサンダーに張り付いていた魔法の残滓は惰性で登っていく。その勢いは全身を覆い尽くすのには余りあるチカラを保っていた。
さすがにこの状況から、アレクサンダーを救い出す方法を思いつくはずもない。
私もマジデも魔法切れ。逆立ちしても水素も出ない。
「オォオオオォオオオオ。」
サイレンのような重低音の声が周囲に響くと、アレクサンダーの魔法“聖なる審判”が解かれていく。あと数時間もすれば一般人も目を醒ますだろう。これにて、誘拐事件は解決だ。だが、塗り固められていくアレクサンダーに私はまだ聞くことがある。
「アレクサンダー、教えて!
どうして、子どもの誘拐なんてことを?」
相変わらず、私の問いにアレクサンダーは耳を傾けない。というか、石化により感覚機能が徐々に失われ、こちらの存在を認識出来ていないようだった。そして、ほとんど独り言のようにこう言った。
「世界を救う魔導師・・・・ケットシー、何故だ?!」
まただ。何故、ケットシーの名を?
塗り固められた花コウ岩がアレクサンダーの顔まで達すると、
「・・・。」
その光景を映し出したケットシーのビー玉のような瞳が、漆黒の闇に紛れて静かに閉じた。
「オォオオオォオオオオ。」
そして・・・
アレクサンダーは物言わぬ石像となり、光に包まれ消え去った。
公園を覆っていた雲は晴れ、辺りはすっかり夜になっていた。
「行ったか・・・。」
「行ったかって、どうなったのよ?!」
「心配いらぬ。理科世界へ送還されただけじゃ。向こうで相応の魔法解除の作業をする。しかし、あの様子じゃとチト時間がかかりそうではあるが。」
「そ、そう。」
一瞬の静寂ののち、カトブレパスが声のトーンを低くして切り出した。
「そんなことよりも・・・のう、ケットシー。」
「・・・。」
「アレクサンダーがお主の名を出した理由を問いたい。」
青白い月の光と私たちの注目がケットシーに集まる中、
パシッ!!
と空気が裂ける落雷のような音とともに、公園の砂場に鋭い閃光が走り、その衝撃波で私たちは尻餅をついた。
「いったぁ。」
いや、尻餅をついたのは私だけだった。舞い散る砂埃にまみれた私に対し、マジデはいち早く立ち上がりあざとくスカートをはためかせて、衝撃波を身体で受けて耐えていた。あんな一瞬でどう反応したらその体勢になるのよ、まったく。
周囲に撒き散らした砂煙が晴れると、衝撃波を起こした物体の正体が徐々に明らかになっていく。
「こ、これは・・・。」
公園の砂場に突き刺さっていたのは、一本の槍だった。
トネリコの柄に真紅の旗を結わえ付け、穂先の金属にはルーン文字が刻まれている。
その槍の名は、
「グングニル?!」
グングニルの槍。
それは分子を分解することで現実世界の全ての物質結合を切断することのできる魔法の槍。そして、私の前に現れたのは、その槍を手にし、黒くて大きな馬に跨り、鉄仮面で顔を隠した銀色の騎士。
「ちょっと、あれって・・・・。」
「・・・オーディン。」
「ケットシー、貴様をゲート開放事件の重要参考人として連行する。」
つづく
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