4-1 終章1

ではまず、ここに至るまでの顛末を語ろう。


その異変に気が付いたのはハルピュイアとの戦いから一週間ほど過ぎた五月の中旬だった。

私は連戦の疲れから重度の五月病を患い、ここ数日、大学を休んでいた。


「春化、今日も学校サボるの?」

「サボりじゃない、ホントに調子が悪いんだってば。」

召喚獣との連戦による肉体的な疲労は数日の筋肉痛を経て今は癒えている。

「筋肉痛は日頃の運動不足のせいでしょ。」

「うるさい。」

調子が悪いというのは精神的なもので、症状としては“なんとなくダルい”と表現する、まさに五月病が当てはまるのではないだろうか?

ただ、その原因は“なんとなく”などではなく、あの仮面の魔法使い、ワイズマンの言ったことが心の何処かにずっと引っかかっているからである。


『魔法少女の源は想像力(イメージ)であり、そのチカラを事象的に見れば、おぼろげな存在であるということだ。』

おそらくこれは私の弱点を指摘している。


夢のチカラ、それが魔法少女のエネルギー源。

他の人よりも“ちょっとだけ”妄想癖のある私が魔法契約できた要因の一つなのではあるが、心因性のソレは本人の状態に大きく左右される。(契約の時に言われていた魔法の使用条件の一つ。事実、マジデはこれが原因で休業中である。)

マジデには大見得切っといて、実態はこれか。

「はぁ〜。」

なんとかしないとな〜。

「どうするのさ?」

肩の上からケットシーが顔をのぞかせてそう言った。

「うーん。修行・・・とか?」

「修行ねぇ〜。」


早速私は実行に移すことにした。


向かった先はこの町の繁華街にある大型のショッピングモール。まず私はスーパー銭湯のサウナで汗を流し、薬湯に浸かり、岩盤浴で体内の老廃物を吐き出した。そして、腰に手を当てコーヒー牛乳を一気飲みした後、勢いよくモールに繰り出すと、夏物の服、靴、コスメ、欲しかった家電、音楽プレーヤー・・・両方の手に紙袋をいくつも提げ、日々の生活で溜まった鬱憤を晴らしながら買い物を満喫する。


私が期間限定のハンバーガーを食べ終え、Lサイズの炭酸飲料に口をつけたところで、

「って、これのどこが修行なの?!ただ遊んでるだけじゃないか!」

ケットシーはそう言った。

確かに遊んでいるだけに見えるかもしれない。だが、まずは私の言い分を聞いてもらおうか。

「魔法少女の夢のチカラは、子どものような純真で希望に満ちた、言って見れば“遊び心”のようなものなんでしょ?」

「まぁそうだね。」

「だからよ。」

「・・・・・・いや、だからよって言われても。

どういう意味なのさ?」

・・・サッシの悪い化け猫だなぁ。

「夢のチカラを生み出すには、楽しい気持ちで心を満たす。好奇心を満たすワクワクやドキドキがその発生源だと考えられるわ。だから私はその第一段階としてまず自分の好奇心を満たすために・・・。」

「清らかな心を持った子どもはそんな“欲望”で心は満たされないと思うけど・・・。」

「うっ・・・。」

じゃあ何をしろっていうのよ。

「駄菓子屋にでも行く?」

「そういうこと言ってんじゃないよ!!」


まぁそれはわかっていたことだ。私の好奇心は基本的に金銭的なものに直結する。マサカを暴走状態から元に戻した“虹を見て感動する心”からは程遠い。

でも、初心忘るるべからず。

私の初心は“魔法少女なんていつ辞めても良い”だから。

「コラーッ!!」

このやり取り、なんだ懐かしい気もする。

「じゃあどうしろっていうのよ?」

「修行といったら山で滝でしょ。」

「えぇー。そんな安直な。それにまだ五月なんだけど・・・。」

五月の山の水って雪解け水なんじゃないの?それはつまり水温が限りなく零度ということでしょ。死んでしまう。

というか、理科と滝行って関係あるの?滝なんて水車の動力源としか考えたことないんだけど・・・。


「そうやって遊んでいるよりかはマシでしょ。」

「いや、そんな事はないんじゃない?だって夢のチカラは・・・。」

「いいから行くよ!」

「いやぁー。」

私の抵抗も虚しく、この化け猫に言われるがまま山に導かれ、そして、ここにたどり着いた。

滝のあるいくつもの山を全てすっ飛ばして。


「ケットシー。一応聞くけどどうしてこの山なの?」

「んー。なんとなく。」

なんとなく、そう、ただなんとなく私たちはここに行き着いたのだ。だけど、それは物語の必然であり理科的な理由がある。

「ただ、この山、滝は無いわよ。」

「・・・・。

この際、滝修行のことはもういいでしょ。」

「・・・。」

まぁそうか。この先に“何か”があるということを私たちは何故だか理解している。

それはまるで、この物語の冒頭から、私がここにたどり着くことが仕組まれていたかのように・・・・。

時間の概念を自在に操る術(すべ)を未だ解明できていない私たちが、運命なんていう言葉を証明することは出来ないけれど。




ここまでがこの章、冒頭の顛末である。

そしてこの先が、物語の結末である。

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