3-1 アレクサンダー事件の顛末

アレクサンダーを理科世界に送り還し、疑惑の念がケットシーに注がれるなか、空間を切り裂き、一筋の槍が突き立てられた。


グングニル。それは分子を分解することで現実世界の全ての物質を切断することのできる魔法の槍。そして、私の前に現れたのは、その槍を手にし、黒くて大きな馬に跨り、鉄仮面で顔を隠した銀色の騎士。

「ちょっと、あれって・・・・。」

「・・・オーディン。」


スレイプニールという名の馬に跨り、魔術と武術に長けた北欧神話に登場する戦争と死の神、

古代ノルドで激怒する者を意味する言葉、それがオーディン。これはもう間違いなく上位召喚獣だ。

オーディンは騎乗したまま空間を切り裂いた槍を拾い上げると、

「ケットシー、貴様をゲート開放事件の重要参考人として連行する。」

低い声を発し、その槍を私に、いや、むしろ肩上にいるケットシーに向けて突き付けた。



「ま、待って!!」

肩上をかばうように身を乗り出して咄嗟に声が出た。

ケットシーが連れて行かれるのは、前例のない少年との魔法契約をさせてしまったから。

加えて、あの暴走事件。管理局に連行されるには充分すぎる理由がある。

私はそう考えていた。

「管理局を無視して、作戦を立てたのは私です。経緯を聞くならまず私のほうから。」

「魔法少女、マジカルマヂカ。」

私は正式名で呼ばれてドキッとした。オーディンの鉄仮面からその表情を読み取ることなど出来ないが、私の方を見据えているのは間違いない。

「今回の件にその地学の少年の件は関係ない。」

「えっ?」

「ケットシーは事件の首謀者、または、その者との繋がりの疑いがあるのだ。」

「えぇ?!」

「・・・。」

「御同行願おう。」

「任意同行は強制じゃない。拒否もできるけど・・・。」

「賢明な判断とは思えないが?」

「・・・。」

無言のまま肩からケットシーが地面に降りると私の変身は解けてしまった。私が自らの意思で解いたのではない。ケットシー、もしくはオーディンが解いたのだろう。

ケットシーがこちらを振り向くことはなく、

「大丈夫、心配しないで。すぐに戻ってくるから。」

オーディンに連れられ光の中へ消えた。

「ケットシー・・・。」


こうして、上位召喚獣アレクサンダーの起こした子どもの誘拐騒動は多くの謎と問題を残したまま一旦の終息を迎えた。



召喚獣オーディンによって理科世界にケットシーが送還されて一週間。

ケットシーからの連絡は何もない。


あの後、ゴーレムはマサカズくんの件で送還された。少年との魔法契約はやはりシステム上は不可能であり、マサカズくんはあくまでも魔法少女として契約したことになっている。魔法少女の少年。そんな事例はこれまでの記録上には存在しないわけで、マジカルマサカという不安定な状態がシステムとして安全であるかの検査をしているらしい。


さらに、暴走状態から回復したゴーレムとフェンリル、ユニコーンには事情聴取が行われたのだが、事件の当時から前後を覚えておらず、犯人の究明には至ることはなかった。唯一、暴走していなかったアレクサンダーはマサカの魔法で依然として封印されたままである。マサカ本人にもその魔法は解除できないようで、現在はケミカルランドのスタッフによる魔法の解除作業に入っている。しかし、作業の目処は立っていない。


一方、マジデからの連絡は何度かあり、召喚獣の起こしている新たな事件が発生したらしい。

一度だけ話を聞いたが、事件の特徴や相手の特定などはまだ出来ていないようだった。

しかしそんなことよりも問題だったのは、使い魔ケットシーがいない状態で私は変身出来ないというのが判明したことだ。魔法の使えない魔法少女・・・・・ワラ箒片手に宅配のバイトでもすれば良いのだろうか?

それ以降、マジデからの連絡は断るようにしている。いつも以上に足手まといな自分が情けなくなったのと、私の存在がマジデの邪魔になると感じたからだ。


ワンルームの自室にこもり、ふとカレンダーに目をやると、四月ももう終盤、世間でいうゴールデンウィークが迫っていた。

「・・・・こうしていても仕方がないか。」

モゾモゾと布団から這い出ると、私はささっと着替えを済ませて行動を起こした。


―――物語は、私ではなく、マジカルマジデ、

藍野夏値の回想から始まる。

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