ep6.平穏主義者の青春-03
しかし落ち着いて周りを見てみると、それは主観的なものでしかないのかと閑は気付いた。
朝になれば皆時間通りに学校へ登校して、大人しく授業を受けて、楽しく談笑して一緒に帰る。
よく見てみれば皆は日常を生きていた。
血なまぐさい死体やおっかない殺人鬼なんて目にすることもなく、平和で穏やかで下らない毎日を生きている。
それは閑も少し同じだった。
閑にとっては仲良く話す友達もいらなければ胸が昂る青春なんて必要ない。
彼はただ安穏に、平和に、平穏に毎日を送れればそれで十分なのだ。
眠たい授業を聞いて、将来役立つかもわからないものを学んで、ちょっと興味のある科目には耳を傾けて。
今日も長い前髪をいじり「俺に構わないで下さい。独りが好きなんです」という空気を出して、休み時間の喧騒の中に埋もれる。
改めてそれを見つめると、何だかんだ俺の平穏はきちんと確保出来てるじゃないかと思えた。
それは嬉しいことだ。
俺は日常の中できちんと生きられている。
「いやぁ~晴れたね~~~~~!」
そう、この男さえ関わらなければ。
「そろそろ梅雨晴れかなぁ~? そうだったら嬉しいなあ~オレ!!!!」
(うっ…………ぜえ!!!!!!!)
本来なら今頃教室で日本史の授業だったはずだ。
それがどうした。
どうして俺はこんな屋上なんて立ち入り禁止区域に立っているんだ!?
「あ、シズカくん見てみて。水溜りに虹が映ってる~」
(この野郎……)
五時間目開始直前に着信があったかと思うと画面には「吉良」の名前が表示されていた。
全力で無視を決め込みたいところだったが、着信が途切れた直後にメッセージでナイフのイラストだけが送られてくれば行かざるを得まい。
そして電話をかけ直せば「屋上開けたからちょっと来て♪」だ。
(ちょっと来て♪ じゃねぇよ! 何なんだよこのクソ殺人鬼は!?)
「シズカくん昨日はごめんね~? 助けに行ってあげられなくてさ、オレどうしても昨日は調子悪くて」
「はあ? あんだけ土砂降りだったらそのままくたばってりゃよかったのにな」
「……アサシと喋った? 何か口調うつってない?」
「浅師先輩は銭ゲバのヤンキーで煙草吸って偽造免許書で車運転してたが話はわかりそうな人だった」
「あぁそう」
そういやオレが行かせたんだった……と吉良は昨日の自分を悔いているようだった。
「浅師の依頼料、教えてあげよっか?」
「結構」
バッサリと切り捨てると「つまんないのー」と吉良はブーイングを上げる。
色々なことを経験してしまった今、吉良からのいじりに怖じ気づくようなメンタルではない。
だが何の為に吉良が自分を呼び出したかはわからないままだ。
何かをさせられるのか、パシリにでもされるのか、ただ単純にイジメたくなっただけなのか……。
わからないし、正直知りたくもない。
すっかり晴れた青空を仰いで吉良は屋上の柵に寄りかかった。
「シズカくんさー」
「……何だよ」
「浅師から何か聞かなかった?」
振り向きざまに、吉良は眼鏡を外してYシャツの胸ポケットにしまう。
「……」
耳から離れない言葉なら一つある。
『二年間一緒に遊んだ後輩は、アイツの気が済んだ瞬間に捨てられるんだよ。飽きたオモチャを捨てるように、殺すんだ』
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