ep1.平穏主義者の失敗-02
そんな言葉の裏を読んでいるかのように吉良はニヤニヤとこちらを見る。
閑も吉良からさわりだけ聞いていたが、どうやらこの「ゴシップ部」とやらはその名の通り、週刊雑誌のごとく世間の事件や噂を面白おかしく談議する、それだけの部活らしい。
思い付きの仮説で構わないし興味がなければただ聞いているだけでもいいと吉良は言っていたが、その後に続けて「まぁ興味がない人はそもそも部内にいなけど~」とか言いやがったのだ。
そして特に部内で好まれる
猟奇的であればある程、ヒートアップすると吉良も興奮していた。
そんな議題で盛り上がるのは不謹慎ではないか? とその時閑は尋ねたが、吉良部長曰く「不謹慎だからこそ、子供の内でいられる今やるんだよ。世間から駄目だと言われることを今やれるのが、未成年の特権さ」だとか。
糸目な彼が珍しく目を大きく開いていたので印象強く覚えている。
「何かないかな~事件事件~」
スマートフォンのテレビアプリでニュース番組を探す吉良と、ただ待つばかりの新入生2人。
入部動機から聞いて狩野窪もこの部活の主旨はわかっているようだが、そうなるとますます彼女の謎が深まる。
隣の席の美少女に声を掛ける気も、関わる気さえもなかった。
隣の席に美術品が置かれているようなそんな感覚で閑は毎日を過ごしていたし、彼の平穏な生活に変化はなく、変化を許しもしなかった。
ただ、吉良の言っていた通り彼女がいつも読んでいる本がサイコミステリー、サイコホラーというようなジャンルだったとすると……気になる点が1つある。
社交性が低く表情の乏しい優等生な狩野窪という女子生徒。
何を考えているかわからないとクラス中から言われる彼女だが、閑だけが知っていることがある。
本を読む時、彼女はたまに笑う。
(あれは何に笑ってるのか……。てっきりコメディ系の話が実は好きでとかそういう今時な感じの奴だと思ってたけど……)
とんだ変わり者に違いない。
「?」
「……」
視線に気付かれて狩野窪が何か? と首を傾げて来たが、閑は何でもないと首を横に振った。
「あ、これなんてどうかな?」
ようやくニュースを決めた吉良が画面を見やすいようこちらに向け、音量を最大にする。
開け放たれている窓から風が吹き込み運動部の声が聞こえた。
学校特有の環境に、スマートフォンから流れるニュースキャスターの言葉はあまりにも不釣合いだった。
『昨晩未明、東京都内の公園でナイフのような刃物でめった刺しにされた女性の遺体が発見されました』
風が長い前髪を揺らし、手の平に滲む汗を冷たくした。
「この事件について、談議しようか」
ニッコリと笑う吉良と顔色を変えない狩野窪。
いや、顔色が変わらないだけで画面に食い入るように見ているから狩野窪も興味があるのだろう。
耳が痛かった。息が詰まる。
「思い付いた仮説から話してくれていいし、もちろん荒唐無稽にしてくれても構わない。これは未成年であるオレ達の、いわば遊びなんだから」
そう笑い、吉良はこちらを向いた。
必死に取り繕うことに精一杯で、判断が鈍る。
閑は思わず吉良と目を合わせてしまう。
彼は変わらず、あの人懐っこい笑顔のままだ。
閑だけが変に気構えている風にも見える。
だから早く帰りたかったんだ。こんなところにいたくなかった、議題が決まる前に帰るべきだった。
だがそれも全て、もう遅い。もう遅いんだ。
そんな言葉は今言わなくたって、昨晩の時点でわかっていた。
今ニュースで報道されている殺人事件の犯人なら知っている。
犯人は、目の前にいる吉良という男だ。
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