ep5.××主義者の誓約-03
「会社を継ぐから、願いを叶えて欲しい。でもその願いについては……詳しくは言えないんだ」
少年は自分の知る限り最もパイプと権力、そして財力を持つ父親にそう伝えた。
あまり会話の多い家族ではないが仲が悪い訳ではない。
ただ静かで大人しい性格の多い家族だった。
少年は「断られたらどうやって探そうかな」と考えながら話していたのだが、意外にも父親は首を縦に振った。
「……え、い……いいの?」
聞き返すと、父親はただ淡々と、
「感情もプライドも捨てて、お前は死ぬまで言いたくなかった言葉を口にしたんだ。お前は言ったことは破らないだろう、だから叶えてやる」
そう答えて電話を一本かけた。
全てを言い当てられた少年は、そんなに自分はわかりやすいのかなぁ……と不思議に思ったが親はそんなものなのだろうと深く聞きはしなかった。
そうして少年の願いは叶った。
誰にも邪魔をされない場所を手に入れ、恋人を出来る限り永遠にこの世に留める為の手段も手に入れた。
「××様! 触ってはいけません!」
何人かの業者の人間に慌てて止められたが少し遅かった。
両手は炎症を起こし激痛を伴ったが、少年の流した涙はそれに対するものではなかった。
業者の人間が応急処置に緊迫する中、少年はまだぼんやりとしていたのだ。
これで彼女といられる……。
そう思うだけで、彼は誰よりも盲目になれた。
「しかし××様……この方の、その……部位はどうなさるんですか? それともこのままでよろしいのでしょうか?」
「いえ、……いつかはきちんと元通りにしてあげたいので。探します」
それから少年は業者の人間から一通りの説明を受けた。
ある一定の期間で溶液を交換すればいつでも鮮明に見ることが可能だということ。
半永久的であるものの、取り扱いには専門家が必要だということ。
溶液は劇物なので、不用意に恋人に触れようとはしないこと。
少年は細かいところはそちらに任せると言って契約書にサインを書き、業者に家の合鍵を渡した。これで全ての作業は終了。
少年は光の差し込まない薄暗い部屋で、恋人にそっと静かに寄り添った。
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