ep4.平穏主義者の抵抗-02
『そうです。「猫」の居場所を教えて欲しいんです。どこにいるか、それだけわかればこちらは十分なので』
一般人を拉致するようなイカれた奴等に関連する「猫」と言えば一つだけ思い当たる。
殺人鬼狩りの「猫」。
狩野窪のことだ。
しかしどうして彼女を? と閑が不思議に思っていると、それを見透かすようにスピーカーから返答があった。
『「猫」は殺人鬼狩りとして我々の業界では有名ですが、要件はそれではありません。私は「猫」自身……彼女自身に用があるのです』
「えっ」
思わず声を出してしまいしまったと口をつぐむ。
どうして「猫」が女だと知っているんだ?
あの吉良ですら「性別はわからないんだけど」と言っていなかったか?
『私はどうしても「猫」が欲しいのです。それくらいは調査済みですよ。なかなか姿を現さないので見つけるのが大変ですが……』
「欲しいって……何だ? 用心棒にでもしたいのか? っていうか、俺は別に『猫』の知り合いって訳でも……」
『ではどうして肩を貸してもらっていたのですか? 閑さん。あの「猫」は自分の姿を目撃した者は皆排除する、冷酷な「猫」だというのに』
さあ、不味いことになった。
あの日、狩野窪の正体を知った工事現場からの帰りに……見られたということだ。
だが目撃者は排除するならお前が排除されてないじゃないかとも言えるのだが……狩野窪の視界に入らなかったのだろうか?
運のいい奴だ、俺と違って……。
「冗談言えよ、あの後大変だったんだからな。『誰かに他言したら殺す』って脅されて」
『そんなことを言うんですか? 彼女』
「あぁもちろん」
殺したくないから誰にも言わないで下さいと確かに言われた。
ひっくり返せば同じ言葉だろう。
「だから言えねぇよ。今ここで言ったら、後で俺がアイツに殺される」
『その心配はご無用です』
「?」
『私は彼女の〝右腕〟が欲しいのですから』
一瞬、言葉の意味が理解出来なかった。
『閑さん、あなたが「猫」の居場所を話してくれれば全てが丸く解決するのですよ。あなたに場所を聞いたらすぐに「猫」を捕まえに行きます。あなたの密告により場所がバレたと彼女は気付くでしょうが、気付いた頃にはもう遅いのです。私は彼女に会い次第、彼女の〝右腕〟を斬り落として持ち帰るのですから……』
どうかご安心を……。
声音はわからないが、満足そうに言っているように聞こえた。
右腕を斬り落とし、持ち帰る。つまり狩野窪は刀を握れなくなる……。
だから密告しても、殺されない……。
『さあ、「猫」の居場所を教えて下さい。そうすれば私もあなたを殺す労力を使わずに済みますし、あなたの命も脅かされずに済みますよ』
「猫」の居場所、つまり狩野窪の家を教えれば……助かる。
簡単なことだ。まだあの家への行き方は覚えている。
住所を言ってしまえば、この居心地の悪い家から出してもらえて自由になるだろう。
そしてあのバールで頭を割られることもないし、狩野窪の右腕がなくなったら彼女は殺人鬼狩りを続けることが難しくなる。
彼女の正体を黙っている必要もなくなるし、息苦しい思いをすることもない。
どうするのが最善かなんて、子供にでもわかる。
「……居場所は」
狩野窪は今「雨男」を狙っていると言っていた。
部活内で殺人鬼が一人と殺人鬼狩りが一人。そしてあの二人はお互いの正体を知らないし、お互いをその機会さえあれば殺そうと思っているはずだ。
狩野窪の脅威が消えれば、あとは「雨男」、吉良から二年間我慢すればいい。
そうすれば、あとは望んでいた平穏な日常に……。
「……居場所は、…………言わない」
『……考え直すのを、オススメします』
「言わねぇ」
閑は顔を上げて答えた。
静かになった室内に雨音だけが響く。弱まる様子はなさそうだ。
『……そうですか。残念です、閑さん。あなたはきちんと判断出来る人だと思っていましたよ』
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