4.平穏主義者の抵抗
ep4.平穏主義者の抵抗-01
「大体さ、キミを殺そうとしてるオレに助けを求めたところで、って思わなかった訳? シーズーカーく~ん」
「……いやだって、あんたが原因ならあんたに何とかしてもらわねーと割に合わないだろ」
「オレのこと正義のヒーローだと思ってるの?」
「大悪党だと思ってる」
「えぇ~オレそこまで大物じゃあ……」
「何照れてんだよ。つか早く助けに来いよ」
「いやだからさ、オレの話聞いてた?」
「は?」
「オレはシズカくんのことなんてどーでもいいんだよ? ただの楽しいオモチャでしかないんだから♪」
「ふざけんな! あんたのせいで狙われてんだよ!」
「オレのせいにしないでよ~、シズカくんのせいかもしれないよ?」
「俺は何もしてない」
「……ま、そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないよ?」
「……はあ? どういう……」
目が覚めた。
壁越しに強い雨音が聞こえる。外は大雨のようだ。
「……ってぇ」
後頭部に残る鈍い痛みと覚醒しない頭に身をよじらせ、閑は自分が寝ていることにやっと気付いた。
冷たいフローリングに横たわり、後ろ手に両手を結束バンドで縛られている。
「……どこだ、ここ。確か……」
確かスーツの男から逃げて学校にいたはずだ。社会科準備室から外の様子を見てそして廊下に出て……。
(殴られた? んだよな、この痛みは)
足は自由に動かせたので上体を起こし、その場に胡坐をかく。
薄暗い室内は誰かの家らしいが、無機質さと生活感のなさからモデルハウスか何かかと感じた。
本棚と洋服ダンスが一つずつ、あとは勉強机が一組。背後の窓にはカーテンがかかっておらず、窓から外を覗くとどうやら二階のようだ。
「……え、ちょっと待て。これ俺、拉致られた?」
唯一の出入り口のドアを開けようとしてもドアノブは動かず鍵も内側にはついていない。
窓を開けたくても窓の鍵まで手が届かない。
(やばい……どうなってんだ? 拉致ったってことは、あのスーツが? 俺に何を……)
何かないかと殺風景な部屋を見回しているとスピーカーのスイッチが入るような音が聞こえた。
『ようやく起きましたね。おはようございます、閑さん』
「!?」
加工された声を聞き、天井を見上げると吊るされた照明の根元に小さいスピーカーらしきものが見えた。
だが監視カメラのようなものは見当たらない。
何だ? 何がこれから起きるんだ?
『そう慌てなくても大丈夫ですよ。少しお話がしたいだけです』
「こっちは話す気なんかねえよ……」
尻ポケットに手を伸ばしスマートフォンを確認する。床に置いて電源を入れたが、何故か圏外だ。
『電波は切ってあります』
(……筒抜けかよ)
どうする、……もう何も思い浮かばないぞ。
話がしたいと言っていたが話だけで終わるはずがないだろう。ただお喋りがしたいなら道端ででもすればいい。
『閑さん。あなたはある〝秘密〟を知っていますね?』
「…………」
どれのことだろう、と顔をしかめた。
『きっとその〝秘密〟は誰にも言ってはいけない、と言われている〝秘密〟のはずです。思い当たるものはありますか?』
……たくさんあってどれだかわからない。
『その〝秘密〟を言って助かるか、その〝秘密〟を言わないで死ぬか。ただそれだけの話ですから、緊張しないで』
バカか? と思った。
助かるか死ぬか、その二択だと? ただそれだけの話だと?
(死ぬのが、それだけの話……? ……ふざけんなよ)
誰かのイタズラとは思えなかった。
この状況は冗談では済ませられない。相手は本気だ。
本気で殺す気なんだ。
雨で部屋の湿度が上がっているせいか、額から汗が一筋流れた。
『いいですか? 喋るか、喋らないかです。〝秘密〟さえ教えて頂ければこちらはすぐにでもあなたを解放しますし、何でしたらご自宅までお送りしますよ』
「……何が聞きたいんだよ、早く言え……」
焦らすな。
早くしてくれ、気力を削るな。
『それでは本題に入りましょう。閑さん、教えて下さい』
「……」
『「猫」の居場所を』
猫。
ペットでも捜しているのか? と挑発する余裕は残っていない。
猫、ネコ、ねこ……。
何の猫だ? うちでは猫なんて飼ってないし、猫には縁も……。
「…………『猫』?」
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