ep2.殺人主義者の友達-09


 どういうことだ?

 今目の前にいるこの狩野窪という女子は本当に公立高校に通う高校生なのか?

 何で探す? 殺人鬼なんて普通関わり合いたくもないもんだろう!?

 俺が間違ってるのか?



「正確には覚えていませんが、5~6人の方とお会いしています。ただ、私は話を聞きたいだけなのにいつも襲われてしまうので」

「そらそうだろうよ」

「ですから話が聞けるのではないかと思い、刀でいつもお応えしています」

「応えんな」

「ただ……結局皆さん、大人しくなってしまうと……何も答えてくれなくなってしまって…………まだ話を聞けたことは」

「殺してるってことだよなそれ!?!?」



 思わず立ち上がると包帯を巻いている最中だった閑の左腕がきつく締めあげられた。

 傷が圧迫されて声も出せずにベッドの上をのたうち回る。

 涙が滲んだが狩野窪に見られまいと手で拭った。



「……なんで殺人鬼に話なんて聞きたいんだよ。つか何を聞くつもりなんだ」

「興味があるんです」

(……そういやそんなこと言ってたな)



 入部初日に「まさか殺人鬼に興味があるのか?」と尋ねて「あります」と即答されたのを思い出した。



「それはあれか? 今後刑事になる為のインタビューみたいな気分でやってんのか? だとしたら無謀もいいとこだろ」

「閑さんには刑事になりたい動機をお話ししていませんよね」

「……あぁ」



 別に知りたいとは思わないけど、とは言わないでおこう。



「警察ではダメなんです、刑事でないと。……殺人犯に頻繁に会えるのは刑事なので」



 もう一度聞き返したかった。

 頻繁に会う為には刑事になるしかない……だって?



「……お前、連続殺人鬼とかに恋するタイプなのか?」

「恋はしません。でも、小さい頃からどうしても興味がわいてしまうんです。どうして人を殺すのか、殺すことにどうして楽しさを感じているのか……。初めは純粋な疑問だと思っていたんですが、途中で気が付いたんです。私は殺人鬼に対して嫌悪感ではなく羨望に近い感情を抱いている……と」



 ドキュメンタリー番組でもたまにある。牢獄に入った殺人鬼に何故か恋をして面談に通い詰める〝ファン〟……それがこの世界には少なからずいるらしい。


 彼女はその内の一人だというのか。

 しかも牢獄に閉じ込められた殺人鬼に会うというならまだ安全性が確保されているが、彼女は牢獄に足を運んでいるのではない。

 まだ野放しにされている殺人鬼に会っているのだ。



「……。今は『雨男』のファンなのか?」

「……ファンという言い方が適切かはわかりませんが、今は……一番会ってみたい人です」



 笑うな! そこで嬉しそうに笑うんじゃない!


 口元を緩める狩野窪は確かに可憐だが、その頭の中はグロテスク極まりない。

 到底理解が出来ないし、理解したくもないし、恐らく彼女も他人に理解は求めていないのだろう。


 閑の左腕に包帯を巻き終えるとまた沈黙してしまった。

 やはり聞くんじゃなかったと閑は頭を抱え、狩野窪は何事もなかったかのようにキッチンでお茶を淹れ始めている。

 マイペースだなぁおい。



「ところで閑さん」

「……何でしょうか」

「閑さんは『雨男』とどのような関係なんですか?」



 ほら来た。

 最悪だ。どうすればいい? どう誤魔化せばいい? どう言い訳をしたらいい?

 どうすれば俺は生き残れる?


 一番聞かれたくない質問をされてしまった。何も知りませんと貫き「頼むからそれについては触れないでくれ」という空気を出しても彼女にそれが通じない。

 それは今日判明したばかりだ。この女の強情さは人間の域を超えている。


 まず「雨男」の正体が吉良であるということは絶対に言ってはならないことだ。

 恐らく今ここでそれを口にすればこの後自宅に帰った時、吉良が「おかえり~」と家の中でナイフ片手に待っているのは間違いない。


 だが待てよ、と閑は自分を落ち着かせる。

 今彼女は「誰なんですか」とは聞いていない。「どのような関係なんですか」と聞いているのだ。

 関係性。

 ……それなら簡単なことだ。


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