5.××主義者の誓約
ep5.××主義者の誓約-01
「私、死ぬまで誰とも付き合わずに独身でいると思ってた」
彼女の突然の言葉に、少年はポカンとした。
「な、何の話?」
「だから、まさかそんな私がこうやって誰かと付き合うだなんて思ってなかったって話」
図書館の前のベンチに二人並んで腰かけて、暗くなる空を眺める。
図書館で過ごすことの多かった二人は帰り際に決まってここで時間を潰すのだが、こんな話をしたことのなかった少年はどうしようと戸惑った。
「……付き合ってみて、どうだった?」
「想像してたよりもドキドキしなかった」
「えっ……!?」
「ドキドキしない代わりに落ち着くんだよ」
慌てる少年を彼女はからかうように笑う。
「大丈夫だってば。私は××が私を好きになってくれてよかったって思ってるよ?」
「そ、そう……それならいいんだけど」
「××のおかげで、誰かと一緒にいるだけで幸せは感じられるんだなぁ……って思った」
遠くを見つめる彼女の横顔はあまりにも大人びていて、自分なんて置いてどこかに行ってしまいそうな気がした。
数センチ離れて並ぶ自分の手と彼女の手を見て、恐る恐る重ねる。
それに気付いた彼女は笑って指を絡ませてきた。
「どこにも行かないよ」
そう、いつでも彼女にはお見通しなのだ。
周りの友人達は彼女を世話焼きだと評価しているが、実のところそれは違う。
少年が人一倍寂しがり屋で子供のように甘えたがりだから、彼女はそれを受け入れてくれているのだ。
いつもしてもらってばかりで何もしてあげられていない。
胸を痛めていると、肩に彼女の頭が触れた。
「一緒にいられるだけで、私は幸せなんだよ。話聞いてた?」
「……ごめん、聞いてた」
「あのね、私はドキドキするような恋とか……そういうのは別に求めてないからね」
「……うん」
「今のままが幸せ」
「……よかった」
指の絡んだ二人の手の上に少年はもう片方の手を重ね、優しく包む。
離れないように、と。
「フフッ」
「? どうかしたかい?」
「そういう優しいところはちょっとドキッとする」
「……」
急に熱くなってきた。多分顔が赤くなってるに違いない。
彼女に見られまいと顔をそむけたが、彼女はクスクスと笑って立ち上がった。
やはり何でもお見通しのようだ。
「私に隠し事は通用しませんよ?」
「……ごめん」
彼女に手を差し出され、その手を取る。
少年が立ち上がると彼女は手を伸ばして少年の髪をわしゃわしゃとかき乱した。
少年も嫌がらずに目をつぶって終わるのを待つ。
「幸せだよ」
「……本当に?」
「今はね」
今は、ということは……これからは? と首を捻った。
「これからも幸せでいたいよ」
「……僕はどうすれば、幸せにさせてあげられる?」
純粋にそう尋ねると彼女から「鈍いなぁ」と怒られてしまう。
不器用なのだから許して欲しいものだ。
彼女は少年の左側に立ち、手を繋ぐ。
どうしたの? と尋ねると、こういうこと、と答えた。
「一緒にいてくれれば、私は幸せ」
冷たい彼女を抱きかかえて彼女の手を握った時、ふとそんなやり取りを思い出した。
あれはいつだっただろうか。
夕日が長い日だったのをぼんやりと覚えている。
「……」
彼女の名前を耳元で呼んでも、彼女は目を覚まさなかった。
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