ep4.平穏主義者の抵抗-08
「金払った分だけ話してやるよ」
「銭ゲバかよ……」
「おぉそうだとも、よくわかってんじゃねーか」
何故そこで誇らしげなのかはよくわからないが、金を出す気はないしこれ以上もう何も知りたくないなと交渉を放る。
「まぁアドバイスついでに教えてやろう」
「別にいいですよ」
「テメェからはいつか情報を買うかも知んねーから聞いとけって」
短い急ブレーキにシートベルトが胸を圧迫した。
赤信号で止まるのにわざと踏み込んだのだろう。
聞いとけというのは命令か。
「俺はテメェが今知ってることは全部知ってる。吉良は『雨男』、狩野窪は『猫』。そんでテメェが二人に脅されてんのも知ってる」
「……はあ」
「んで、テメェが知らねぇことももちろん知ってる。情報でも金儲けは出来るからな、知れることは知っといて損はねぇ」
「……そうすか」
「だからよ、一つ重要なことを教えてやりてぇのは山々なんだが……なあ?」
そう言われても高校生の小遣いでは大した額はない。
どんなに重要なことでも閑の財布事情では情報を買うことは出来ない。
「金ないです」
「交換でいい」
「?」
車が停止し、浅師はハザードランプを点けた。
窓から見上げるともう閑のマンションの裏だ。
「あの女の……『猫』の刀についてだ」
「……いや、大したこと知りませんけど」
「どうやって手に入れたか、それが知りてぇ」
何だ、そんなことでいいのか? と一瞬思ったが、こういう情報は他人が誰かに言っていいものなのか? とも迷う。
特に狩野窪は自分のことについて他人に言いふらしたりしない方だろうし……。
「テメェが喋ったってことは黙っててやるよ」
「金積まれなきゃでしょう」
「……まあな!」
楽しそうに笑う浅師だったが、見た目が見た目なだけに笑うだけでも十分怖い。
閑は少し考えたが、自分もはっきりと知っている訳ではないし……今言わないといつまでも聞かれそうでそれは嫌だなと判断する。
「『もらった』って言ってた」
「誰から」
「『わからない』そうです」
「……わからない、か……ふーん」
え、今のでいいの? と目を丸くしたが、それでいいらしい。
浅師はそれ以上閑に追求することはなく、じゃあ教えてやろうと人差し指を立てた。
「閑、お前吉良からなんて言われた?」
「……何って」
「何か時間とか期間についての話されなかったか?」
「…………あ、二年間って」
二年後、吉良が卒業するまで黙っていればいい。
そう本人の口から言われたと素直に答えた。
すると浅師の口角がつりあがる。
「二年……そう言ったんだな?」
「は、はい……」
何だろう、嫌な予感がする。
浅師に対してではない。
何故か、吉良に対する……イヤな予感だ。
「アイツな、後輩イビリが好きなんだよ。他人をいじめるのが好きなんだ」
「……ま、まぁ……それは知ってます」
「それも二年なんだ」
「……?」
「二年間、後輩をイジメるとアイツは気が済むんだ」
「…………」
そこから先は何だか聞きたくなかった。
嫌な言葉を言われそうだったからだ。
それを言われてしまうと、とうとう自分は絶望の淵に立たされているんだと突きつけられてしまう気がした。
しかし浅師は彼なりの親切心で教えてくれた。決して意地悪ではない。
閑が話した分だけ、きちんとした取引を成立させたのだ。
そしてその言葉ははっきりと告げられる。
「二年間一緒に遊んだ後輩は、アイツの気が済んだ瞬間に捨てられるんだよ。飽きたオモチャを捨てるように」
殺すんだ。
その言葉は耳にこびりついて離れなかった。
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