ep6.平穏主義者の青春-02
「元気なさそうだね、閑君。休日に何かあったのかい?」
「まー……色々と……つか元気ないのは朝の……」
「?」
昼休みになると小雨が降り出し、非常階段で昼食を摂ることを断念した閑は「世間話同好会」の部室である社会科準備室へと向かった。
そこには予想通りの人物
状況から見るに、また浅師が仁木に勉強を教えているようだった。
閑は邪魔にならないようテーブルから少し離れてカップ麺を啜る。
「辛気臭ぇー奴がいると飯がマズくなんだろ」
「スンマセン……」
「まぁまぁ、聞けることなら相談に乗るよ。愚痴なら聞くし」
朗らかに笑う仁木の顔を見て、閑は少し考えた。
「……いや、別に大丈夫です」
「そう?」
(あんたの横にいるヤンキーを見るだけで昨日のこと思い出す……とはなぁ)
昨日の一件と関係のない彼に聞かせても、と閑は黙ることにした。
恐らく時間が解決してくれるに違いない。何事も慣れだろう。
「おーそういやぁ閑」
「はい」
「お前まだアイツ、知らねぇだろ?」
「アイツ?」
「この部活、二年は三人いるんだぜ?」
そう言えばそうだった。
二年生は三人。今まで閑が顔を合わせて来たのは吉良と浅師だけ。
確かもう一人は女子だったような気がするが……。
「どうでもいいですよ、俺そもそも部活なんて入る気なかったし……」
「残念だったなあ、この学校は帰宅部なんて存在しねぇからな?」
「え、閑君本当は帰宅部に入りたかったの?」
「……中学までは帰宅部だったんですよ」
楽しそうに笑う浅師の顔に既視感を覚えた。
なるほど、これは確かに吉良と気が合ってもおかしくない……。
というか「帰宅部に入りたかった」なんて一言も言ってないのに、やはり浅師には大概のことを知られているのかと気が重くなった。
(銭ゲバだし金さえ絡まなきゃ無害そうなんだけどなぁ……)
「でも今年はやけに部活に顔出さないね、あの子」
「俺はいねぇ方がせーせーすっけどな、あのアマ」
「仲悪いんですか?」
「俺は嫌いだ」
閑の問いに躊躇なく答える浅師。
彼の顔を見て、その最後の二年生とやらにはもうしばらく部室に顔を出して欲しくないなと思った。
荒れる予感しかしない。
「そんじゃあ、俺は食い終わったんで出てきますね」
「もっとゆっくりしていけばいいのに……。昼休みまだ三十分もあるよ?」
「ちょっと考え事したいんで、失礼しまーす」
スープを飲み干したカップ麺をビニール袋に入れてそそくさと部室から退散する。
廊下の窓から外を見るともう小雨が晴れたようで雲の間からは日が差し込んでいた。
「あ、そういえば浅師。この間ネットの掲示板に書かれてた『マンション建築作業場の惨殺死体』の続き、何か書いてあったかい?」
「あー? お前あんなんが面白ぇーのかよ」
「だって僕らの活動内容はそうじゃないか」
「だとしてもアレはねーよ、あんなん犯人丸わかりだろが」
ドア越しにそんな会話が聞こえて来て、閑はすぐさま場所を移すことにした。
温和そうに見えていたあの仁木でも、しょせんは「世間話同好会」の元部長なんだなぁ……とため息が漏れる。
「俺の平穏はどこに行っちまったんだろうな……」
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