ep3.秘密主義者の告白-02


「「え!?」」



 仁木と吉良の声がハモリ、横からは吉良が「シズカくん何でチクんの!?」と随分心外そうにこちらへ訴えている。



「何かと俺に絡んで来て無理強いされたりパシられたりして、どうにかならないんですか? この眼鏡」

「ブフッ」

「ちょっとアサシ! 何笑ってんだよ!」

「お前『眼鏡』なんて呼ばれてんのかよ! くっそダセェな」



 いつもは後輩と先輩の一対一だが今は違う。一年生一人に二年生二人、三年生一人のこの状況だ。

 自分をいじることだけに集中出来まい? と閑がほくそ笑むと吉良は悔しそうに歯ぎしりしていた。

 いい気味だ。



「何だよ! オレはぼっちなシズカくんが可哀想だから構ってあげてるんだよ? いうなれば先輩からの甘やかしじゃないか! それを、恩を仇で返すなんて!」

「俺はいつもなんて言ってますっけ? 先輩」

「賑やかなの大好き♪ って」

「あんたと一緒にすんじゃねぇよ! 俺は〝平穏主義者〟だって何回も言ってんだろうが!」

「シズカくんが悲しい青春を送らないように、オレはいつも構ってあげてるんだよ!?」

(誰のせいで欲しくもなかった青春が血塗れになってると思ってんだコイツ……!!)



 湿度が高いとイライラもしやすい。

 普段は流せる吉良の言葉に一々キレて、浅師あさしはそんな二人のやり取りにゲラゲラと笑い転げ、仁木元部長はやれやれとため息を吐いていた。



「吉良」

「!」



 あの吉良が肩をビクつかせているのを見て、「おぉ……」と思わずうなりそうになる。



「きみはいつもいつも……そんなに後輩イビリが好きなのかい? よくないと思うよ」

「え~……だって、面白いしさ。色々」

(俺は全面的に面白くねぇよ)



 この様子だときっと彼は小学校中学校と後輩いじりを楽しんでいたのだろうが、閑がそれらと別枠なのは間違いない。

 自分の正体を知る、脅せる楽しいオモチャと思われているのは確かだ。



「仲良くするのとイジメるのとは違うっていつも言ってるじゃないか……まだその区別がつかないのかい?」

「う~ん、………………うん」



 たっぷり間を置いて首を縦に振る。

 間を置く意味があったのか? と閑は呆れ、仁木も肩を落としていた。

 昔から苦労させられているようだ、同情する。



「閑君ごめんね。一応これからは僕が釘を刺すようにするけど……それでも多分、迷惑をかけると思う。その時はすぐに教えて欲しい」



 久しぶりにまともな人間の言葉を聞いて閑は驚くのと感動するのとに忙しかった。

 それに「相談」といった手前、実はただただ吉良に対する愚痴を聞いて欲しかっただけなのだ。

 まさか元部長が吉良をよく知る人物で彼に注意を促せる人物だとは思ってもみなかった。

 収穫は想像をはるかに超え、今の言葉を聞けただけで十分だ。



「いえ、ありがとうございます。マジでこの眼鏡にはいつもいつもやられっぱなしなので、助かります」

(シズカくん~~~~~?)

(これで俺の日常が少しは戻ってくる訳だな?)

(……ハハハ、今オレが調子悪いからって……梅雨が明けたら覚えておきなよ)



 どうせこいつ、「雨男」から逃げる術は残っていないのだ。

 だったら調子の悪い時にとことん攻めて、あとは耐えに耐え抜いてやるよ。と閑は笑い返した。


 仁木も浅師も何を二人で盛り上がっているんだ、と不思議そうな顔をしていたが浅師が何かを思い出したように吉良へ声を掛ける。



「そういやよ、吉良。もう一人一年がいるんだろ? しかも女だって?」

「あ、狩野窪かのくぼちゃんね。そう言えばもう6月なのに結局全員の顔合わせは出来てないよね~……今度ちゃんとしようか!」



 そう吉良が手を叩くと同時に、ガラリとドアの開く音が聞こえる。


 背後を確認しなくても、閑は誰が来たか察しがついた。そして深くため息を吐いた。

 ご本人様は呼んでないぞ、と。


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