第26話 結界解除・2
右手にもった白銀の魔導杖を強く握り、ヴァイスは左手で慎重に結界に触れた。
彼の背に触れているノエルとレイア、そして兄と父から、ありったけの魔力と精霊の力が注がれる。
ヴァイスは五人分の力を合わせて結界に流し込み、結界を形作る白魔導と融和させようと試みていた。
*
この力の使い方に気付いたきっかけは、巨人の谷で大地の精霊を動かすレイアのサポートをした時だった。
あの時は、レイアにヴァイスが持つ魔力と精霊の力を直接流し込み、レイアの
通常、魔力を直接他人に注入するという方法はあまり行われない。仮に魔導術の使い過ぎで術者体内の魔力エネルギーが一時的に不足したとしても、時間経過や回復薬によって体内の
しかし、自らの体内魔力の引き出し方がわからない魔導初心者に対しては、誘導のために指導者が微量の魔力を流すことがある。ヴァイスが最初にレイアの額に二本の指を当てたのはそのためだった。
魔力を直接他人の体内に送り込んで体力や魔力を回復する方法を、ヴァイスは日常的に取る場合があった。頻繁に魔力枯渇に陥るノエルと一緒にいて、
自ら意図したわけではないが、その幾多の経験から、ヴァイスは一般的な魔導師よりも優れた魔力誘導と制御の
他人に魔力を流す方法を応用して自らの魔力を思い切り流し込み、相手の魔力と融合させる。そうすれば、自らの魔力量を超えた「魔力の塊」であってもどうにかコントロールできるのでは? と考えたのだ。実際、巨人の谷の奇跡の時にはそれがうまくいった。
二回目に実践したのは、獣人村の地下洞窟でスライム型の魔物と戦ったとき。あのときは、こちらの魔力をノエル達の体の方に流し込み、いわば複数人に対して魔力の通電を行った。
今度はその時の逆をやればいい。ノエルを始め魔力溢れる複数人の魔導師から魔導エネルギーをもらい、それを自らの体を通して結界に流し込む。魔導エネルギーの総和は、単純に考えれば一人のときの五倍になるはずだ。
魔力の通電を、五人がバラバラに行ったのでは意味がない。ヴァイス以外の四人は白魔導が得意はないので、五人分の魔力をまとめてコントロールする役割は白魔導師であるヴァイスが担う必要があった。
*
背中に触れる四人の手からは、強力な魔力が流れ続けている。
五人分の魔力制御を始めたヴァイスの額に、すぐにじわりとした汗が
自分の魔力量を超える力のコントロールがこれほど難しいとは思わなかった。頭がずきずきと痛み、生まれて初めて魔導術を使ったときのような気持ちになる。それでも何とか正気を保っていられるのは、ドワーフにもらった魔導杖が魔力制御をサポートしてくれているおかげかもしれない。
結界に触れた個所から、白い光の波紋が広がった。
ヴァイスは自らの契約する光の精霊と、父・兄・ノエルがもつ光の精霊、そしてこの土地に存在する光の精霊に呼び掛け、結界を構成する精霊に話しかけようと試みていた。
彼一人の魔力では、おそらくこの結界の主に話しかけることすらできなかっただろう。
結界を構成する魔力と比べて、ヴァイスの魔力は小さすぎる。大きな湖に一匹の魚を放つようなもので、悔しいがヴァイスの魔力干渉に城の主は気付きもしないだろう。
だが五人分の魔力を合わせ、土地の精霊の力も借りて最大限まで増大させた今、その力は
ヴァイスは力づくで結界を破るのではなく、結界を通して城の主との直接対話を試みていた。
結界の主に意識を集中し続けていると、五感が次第に現実から遠のいていくのがわかった。ふわりと意識が宙に浮いた瞬間、ヴァイスの耳に精霊達の声が聴こえた気がした。
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◆冒険図鑑 No:26: 魔導術の才能
エルフ族の魔力量は、生まれつき人族の三~五倍ほどある。また、エルフ族は魔導師でなくとも多少の魔導術の心得がある。これは、彼らが人族よりも少しだけ精霊に近い存在であることと関係がある。
第一に、精霊の言葉は古代エルフ語に少しだけ似ていて、エルフ族はその言葉を用いて精霊に意志を伝えることが違和感なくできる。これは獣人族が獣と心を通わせる
第二に、エルフ族は大地のエネルギーを取り入れて生きているため、精霊との魔力のやりとりもごく自然に行うことができる。
こうした特性から、エルフ族はすべての種族の中で最も魔導師としての素質が高い種族なのである。
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