エピローグ
第37話 青い鳥と新たな旅立ち
翌朝。
ヴァイス一家への朝の挨拶を済ませたノエル達は、王都に留まらないかという昨日の提案に対して、一晩じっくり考えた答えを伝えた。
*
「僕はやっぱり、もっと世界中の色々なところを見てみたい。ここ以外にも僕の魔導術が役に立つところがあれば、行って助けてあげたいんだ!」
「そうだな。俺も、こんな立派な都会に住むのは似合わねぇ。荒くれ者は荒くれ者らしく、荒野を旅するのが似合うと思ってるぜ」
カノアとレイアも、ノエルとカッツェの二人に付いて行くつもりでいるようだ。
「でも……ヴァイスは自由にしてね。今まで支えてくれて、ありがとう」
ノエルが真っすぐヴァイスを見つめて、感謝の言葉を述べた。
薄蒼色の瞳には、今にも零れ落ちそうな涙が溜まっている。別れを覚悟していながら、最後は泣かないと決めているようだった。
その姿を見たヴァイスの胸にも思わず熱いものがこみ上げて、言葉が詰まる。
「……それを聞いて、安心しました」
やっとそれだけ口にしたヴァイスは、ノエルやカッツェ達を見渡して微笑んだ。
*
「もちろん、私もノエル様と一緒に行きますよ」
「……えっ?!」
ヴァイスの答えに意表を突かれた様子で、ノエルが顔を上げて聞き返した。
「ノエル様に一生付いていくと、誓いましたからね」
晴れやかな笑顔で、そう告げた。
もちろんヴァイスの答えは、初めから決まっていたのだ。
最初に出会った日、自らの居場所を見失っていたヴァイスに「守りたい場所、守るべきもの」があると教えてくれた、この小さな魔導師の少年。
それに不器用ながらいつも明るく真っすぐな炎で正義を照らし出してくれる、頑固で武骨な炎の戦士。
寡黙だが本当は誰よりも暖かく繊細な心を持つ、黒い肌の異族の
天真爛漫な自由さと無邪気さとで、沈む心までも浮上させてくれる猫族の少女。
みな、かけがえのない大切な仲間だ。
四人がヴァイスに進むべき道を教えてくれて、ヴァイスは四人を心から守りたいと思っていた。そしてそう願う時、ヴァイスには今までにない力と閃きが湧いてくるのだ。
この五人ならば、どんな困難でも乗り越えられる。自分の居場所はここだと、ヴァイスはそう確信していた。
「……良かった!」
ぼすっと音を立てて、年下の盟友がヴァイスの胸に飛び込んできた。ふわふわとしたその淡い金髪を撫でる。
*
「ヴァイスよ、私はお前の弱さを心配していた。お前は優しく誇り高いが、同時に自分の殻に閉じ籠りがちだった……。誰かを守る強さを持たなければ、その心は簡単に折れてしまうだろうと。……だがお前にも、守るべき大切なものができたようだな。安心したぞ」
やりとりを見ていた父ゴルトが、息子を送り出すようにぽんと肩を叩いた。
「うちの愚息を、どうかよろしくお願いします」
「そっ、そんな……こちらこそ!」
ヴァイスの家族三人が頭を下げ、ノエル達四人が慌てて頭を下げ返す。
「ぷっ……みなさん、堅苦しいですよ!」
横で見ていたヴァイスは、可笑しくなって思わず噴き出してしまった。
一生この地に帰ってこない訳ではないのだ。生きていればいつだって、いや命が尽きてもなお、本当に大切な人への想いは届けることができる――魔女ブランシェと王の手紙のように。
心の扉を開けて曇りなき瞳で見つめたとき、きっと真実は目の前に現れる。魔女の扉を開けて真実の言葉を届けたヴァイスは、魔女にとっての小さな青い鳥だったのかもしれない。
そう思うヴァイスの心は、雲の隙間に見出す蒼天のように晴れやかに変わっていた。
新たな地へ向けて旅立つ五人の頭上を、蒼い鳥が高く高く飛んでいった――。
― 第二部「魔王の手紙」(完) ―
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第二部「魔王の手紙」をお読みいただきありがとうございました!m(_ _)m
引き続き、新作として第三部「色紡ぐ音」の連載が始まります。
第三部は、レイアを主人公として少しテイストが変わり、「善き魔女の城」から新たな冒険がスタートします。
そちらも楽しんでいただけたら幸いです!(*'ω'*) 作者より。
■続編・第三部「色紡ぐ音」
魔王の手紙/とある少年魔導師の異世界冒険譚Ⅱ 邑弥 澪 @purelucifer2016
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