第36話 審判の日
魔女ブランシェの真実が解明され、魔女の王都追放は取り消された。
国王ヴァールハイトは魔女が王都に戻り住むための許可を出したが、魔女ブランシェは北東の城に戻ることを選んだ。
*
「私はこの手紙があれば充分だ。もうすぐ私も寿命を迎える。これで心残りはない……」
「ブランシェさん……」
魔女は憑き物が落ちたようにすがすがしい顔で、二百年前の王から送られた手紙を大切そうに胸に抱いていた。ノエルが心配そうに言葉を掛けようとするが、何と声を掛けてよいかわからない様子で口篭る。
「……と言っても、あと数十年は生きるつもりだがな!」
魔女が健康そうな歯を見せて、快活に笑った。
「エルフ族にとっては、200歳も250歳も、あまり変わりないようですね」
そう言いながら、ヴァイスも全ての任を無事に果たせたことに安堵し、ようやく肩の力を抜いた。
*
北東の魔女が住んでいた城は、「善き魔女の城」と呼ばれるようになった。現在では失われつつある古いまじないや白魔導術を後世に残すため、魔女ブランシェが若い魔導師の指導をすることになったのだ。
国王ヴァールハイトは今回の件で科学至上主義を改め、魔法の力でしか成し得ないこともあると認めた。そして王宮直属の魔法省と白魔導師には国家予算が追加され、地方や国外に散らばった白魔導師達を再び戻すよう命が下った。
*
王宮の訪問から一夜明け、ヴァイスの家ではノエル達にご馳走が振る舞われていた。
「ニャニャッ! どれもこれも美味しいニャ! 初めて食べる不思議な味ばかりだニャ」
「お前、ちょっとは遠慮しろよ……」
幸せそうな顔で舌鼓を打つカノアを、カッツェが隣でたしなめる。
「どうぞ、たくさん食べてくださいな」
母ローゼが、にこやかに笑いながら次々と料理を運んできた。
「ときにヴァイスよ。国王からは、各地の白魔導師を再び王都に呼び戻す命が下っている。お前も王都に戻らないか? お前は今回の功績を認められて、特別に宮廷魔導師団の白魔導師部隊・中尉に引き上げられる。待遇は以前よりずっと良くなるはずだ」
父ゴルドと兄ブラウが、ヴァイスにそう提案した。
ノエルやカッツェ、レイア、カノアの四人についても、本人が望むならばここ王都に居を構え、望むだけの褒章を与えることを国王ヴァールハイトが約束してくれていた。
ヴァイスとともに魔王の城に潜入して魔女を連れ帰ってきたノエル達四人は、「異国の地から来た英雄」だと騒ぎになっている。
「私は大したことはしていませんよ。私一人では、惑わしの森も魔女の結界も抜けられませんでしたし……。ノエル様達はどうされますか?」
いつも通り謙虚な姿勢を崩さないままのヴァイスは、ノエル達にも尋ねた。
「うーーん、ここの暮らしは素敵だし、まだまだたくさん見たいものもあるけど……」
「ずっと住むとなると、急には決められんな」
「ニャンニャン、ボクは美味しいごはんが食べられて、薬の勉強ができればどこでもいいニャン♪ 魔女さんに、薬の作り方を教えてもらうニャン♪」
「私は……カノアが行くならどこでも」
ノエルとカッツェ、カノア、レイアがそれぞれ意見を述べた。
結局その場で話はまとまらず、ノエル達は一晩考えさせて欲しいとヴァイスの家族に伝えたのだった。
*
――その夜。
ヴァイスの家の客室でふかふかの天蓋付きベッドに横たわりながら、ノエルはカッツェに尋ねていた。
「ヴァイスは、このまま自分のお家に戻るのかな……」
「まぁ、あいつにとってはその方がいいんじゃないか? ここには何の危険もないし、街に出れば英雄扱い。何でも揃っているからなぁ」
カッツェは頭の上で腕を組みながら、そう答える。
「そっか、そうだね……」
ノエルは何か考えるように少し寂しそうな声で答えたあと、久しぶりのベッドに身を沈め、ゆっくりと眠りに落ちていくのだった。
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◆冒険図鑑 No.36: 善き魔女の城
魔女ブランシェの城は改築され、東の王都の魔導師たちを指導するための場として提供されることとなった。
魔女ブランシェは
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