ジャングルと世界樹

第4話 密林(ジャングル)とカボチャ

 「浮島」を離れた一行は、それから飛空艇で約一日飛び、無事に東大陸へと上陸した。


 飛空艇のおかげで東大陸の中ほどまでは飛行してこれたものの、ここから先は大陸を陸路で北上する必要がある。ちょうど数か月前に西大陸の北から南まで縦断してきたのとは逆に、今度は東大陸を縦断する旅だ。意図しないうちに、ヴァイス達はすっかり世界を股にかける冒険者になってしまっていた。


*

「西大陸のときよりも危険な旅になるかもしれません。東大陸の中央には密林ジャングルがあって、まだ未開の地が多いのです。私もこのジャングルに足を踏み入れたのは初めてです……」


 ヴァイスは困り顔でノエル達にそう告げた。

 東大陸中央のジャングルは未だ人の手が入らない未開の地となっていて、かなり危険な動植物も蔓延はびこっている。東大陸出身のヴァイスですらこのジャングルに足を踏み入れた経験はなかい。もしジャングルで他の四人を危険な目に合わせてしまったら――その責任の重さに、ヴァイスは自分の心が暗く沈んでいくのを感じていた。

 だが彼の心配をよそに、ノエルはいつもの調子で張り切っている。


「大丈夫、行くしかないよ!」

「お前は相変わらず暢気のんきだな」


 明るいノエルの声とカッツェに励まされるように、一行はジャングルへと足を踏み入れた。


*

 飛空艇が停泊した町から少し離れると、そこはもう極彩色の木々がうっそうと生い茂るジャングルだった。


 キーキー、とどこかから動物の鳴き声が聞こえる。バサバサと鳥が羽ばたき、ゲロゲロと蛙が鳴く……。東大陸のジャングルは、西大陸の「暗き森」と比べてかなり騒がしかった。目に見える花や草は全て、毒々しいほどの鮮やかな色を放っている。


「ふむ……こちらの森は騒がしいな。だが精霊達も私達を歓迎していない訳ではないようだ」

「うん……知らない土地の僕らが来て、驚いているだけみたいだね」


 レイアとノエルが辺りを見回している。

 精霊が視える二人は、この土地の精霊に挨拶をしているようだ。土地に棲む精霊は、見知らぬ者が来るとまるで観察するかのように様子を見に集まってくることがある。ヴァイスの目には、ざわざわと集まる精霊達の光が視えていた。


*

 ジャングルに入ってから数時間後。一行は最初の休憩を取るため足を止めていた。


「ニャ、レイア……」

「……わかった」


 カノアがこっそりとレイアに近付いた。心得た様子で頷いたレイアは、立ち上がって男性陣を一瞥した。


「カノアとここを少し離れる。……誰も近寄るなよ」

「「……はい」」


 レイアの言葉に、男性陣は素直に頷いた。これは「いつものこと」なので慣れっこだ。


*

「ここなら大丈夫そうだな」

「レイア、ちょっとそこで待っててニャ~」


 安全を確認した木の陰に隠れてカノアがびょこっと身を屈めた。レイアはカノアの背後で周囲を警戒していた。


 レイア達エルフ族は、他の種族と違ってほとんど用を足す必要がない。だがカノア達獣人族は、人族よりも少し代謝が良いようだった。――つまりトイレが近い。もちろん森の中でカノアを一人にするわけにはいかないので、女子二人は常に一緒に行動していた。生き物の生理的要求は避けられるものでもないので、もともと〈森の民〉であるカノアとレイアは特に気にしてもいない。


「いつも申し訳ないニャ~」

「……気にするな」


 用が済んだカノアは、ざざざっと後ろ足(?)で周りの土をかけて、自らの痕跡を埋めた。彼女は時々猫そっくりな動きをする。……獣人猫族なので当たり前なのだが。


「ニャ? こんなところにカボチャがあるニャ……?」


 その時、少し離れたところにあるオレンジ色の大きな楕円形の実に気付いた。

 こんなジャングルの中にカボチャが生えているとは珍しい。珍しいものには大抵危険が伴うのだが、残念ながらカノアは警戒心よりも好奇心の方が勝ってしまっていた。

 もしかしたら食べられるかも。と食いしん坊のカノアが何の気なしにカボチャに近付こうとした瞬間――


「カノア、危ない!!」

「ニャッ?!!」


 突然、そのカボチャが大口を開けてカノアに襲い掛かった。カノアをおうとしたレイアもろとも、巨大化したカボチャが一瞬のうちに、二人を丸のみにしてしまった――!



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◆冒険図鑑 No.4: 密林ジャングル

 東大陸中央に位置する巨大な熱帯雨林。この一帯は東大陸の各国で不可侵条約が結ばれており、開拓が禁止されているため、自然のままの姿を残している。

 ジャングルの中には野生の動植物が自生しており、まだ図鑑に載っていない新種も数多く存在するという。

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