第3話 浮島と吟遊詩人
飛空艇に乗り、空に浮かぶ空中都市〈
*
「うわ、綺麗な景色――」
飛空艇を降りてすぐに、目の前に広がる光景を見たノエルが感動の声を上げた。
遥か遠く、西の空が
東の空は濃藍色に深く染まり、今まさに銀色の満月が水平線から顔を出そうとしていた。
それらすべての景色が、ここ〈浮島〉からは一望できる。高級リゾート地として名高いこの空中都市にはバロック調の精緻な宮殿や美しい噴水が建てられ、まるで天上の楽園そのものだった。
「うぅ、でも風が冷たい! 空の上って、寒いんだね」
ノエルが体を縮こまらせて身震いした。
雲より上に位置するこの浮島では、地上よりも気温がかなり下がる。北国出身で寒さに強いノエルといえど、常夏の南方諸国からの急激な気温変化には耐えきれなかったようだ。そう――ここ浮島は、夏の間の避暑地としても人気があった。
ヴァイス達の乗ってきた飛空艇は、燃料補給のためここ浮島に半日ほど停泊することになっていた。
*
「ニャッ、何か綺麗な音が聞こえるニャ」
「あれは……吟遊詩人のようですね。行ってみましょうか」
何かにの音に気付いたカノアの声で、五人は音のする方に向かってみた。
噴水前の広場で、一人の吟遊詩人が
その女性は鮮やかな虹色の羽毛のような髪をもち、その腕は鳥の大きな翼の形をしている。――
吟遊詩人の周りには空中都市の住人らしき獣人鳥族や、大富豪と思われる紳士や貴婦人が集まって、うっとりとその声に聞き惚れている。獣人鳥族の歌声は素晴らしいと相場が決まっているのだ。
吟遊詩人の歌が滑らかな旋律となってヴァイス達の耳に届いた。どうやらお
『人魚の娘は恋をした
初めて目にした地上の
人魚の姫は歩けない 思い悩んだ人魚姫
魔法使いと取り引きし 声を失い足を得た
王子と姫は愛し合う しかし王子は知らされない
姫の命は七日だけ 七日の晩には消えてしまう
涙に暮れた王子様
ついに自らその胸に ナイフを突き立て後を追う
姫と王子の亡骸は 海に浮かべて
泡と消えた魂を
そうしてできた
王子と姫の生まれた地 陸と海とを見渡して
誰にも届かぬこの場所で
吟遊詩人が最後の弦を弾はじくと、切ない余韻が響き渡った。
聴き入っていた聴衆から拍手が沸き起こる。ヴァイス達も気が付けば感動の拍手を送っていた。
吟遊詩人はゆったりとした動作で立ち上がり、象牙色から淡黄色に変わる優美な腕の翼を広げて聴衆にお辞儀をした。
*
「うぅっ……悲しい歌ニャ」
「だが……最後は空の上で二人は結ばれたのだな」
「この浮島に、そんな悲しい伝説があったんだね……」
カノアが思わず涙ぐみ、その隣のレイアも瞳に涙を滲ませている。
ノエルは物思いに
その隣で、ヴァイスは一人黙して考えていた。
カノアのような
逆に、ヴァイスやレイアのようなエルフ族は人族の倍以上の寿命がある。
もし仮に、カノア五十歳まで、ノエルやカッツェが百歳まで、ヴァイスやレイアが二百歳まで生きるとすると……。それらの差はあまりにも大きい。
例え七日間の儚い命でなくとも、「老い」と「死」は必ずやってくる。そして必ず「先に逝く者」と「遺される者」が生み出される。だから寿命の異なる種族間の愛というものは、それだけで困難と悲しみを伴うのだ……。
ヴァイスは
悲しい歌に呑み込まれて、少し感傷的な気分になりすぎてしまった。今はそんなことを気にしていても仕方がない。この五人が出会い、今もこうして一緒にいられることが奇跡なのだ。今はただそれだけでいい、とヴァイスは思っていた。
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◆冒険図鑑 No.3:各種族の寿命
獣人族の寿命はおよそ50歳、人族・
ただしこれは理論上の話で、実際には怪我や病気などで寿命を全うせずに亡くなってしまう者も多い。逆に獣人族でも70歳や80歳など高齢まで生きる長生き者もいる。獣人村にいたカノアの師匠は67歳という高齢である。
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