ドワーフとドラゴンと人魚

第14話 小人族<ドワーフ>・1

 獣人の村を出た一行は、獣人兎族の掘った地下通路を進んでいった。

 密林ジャングルの暑く湿った空気とは異なり、坑道内の空気はひんやりとしている。


 地上の入り口は獣人族によって守られていただけあって、坑道内には危険な敵も見当たらない。たまに現れるのは小さな蝙蝠コウモリやネズミ、モグラくらいなものだ。坑道は途中で上下したり曲がりくねったりしながら、枝分かれもなく一本道で延々と続いていた。


*

 人二人がやっと並んで歩ける程度の狭い坑道内を歩くなか、ヴァイスは遠くから近付く物音に気付いた。


「誰か来ますね……」


 念のために武器を取ったカッツェとレイアが戦闘態勢で身構える。

 やがて、洞窟内に響く足音が全員の耳にはっきりと聞こえてきた。揺らめく松明たいまつの明かりが見え、ぺたぺたと足音を立てて現れたのは――。


*

「お前たち、何者だ? 密猟者か?」


 厳しい口調で話しかけてきたのは、人間の子供ほどの背丈しかない男達だった。

 皆、カノアと同じくらいの身長だが、子供ではない――小人族ドワーフだ。全員がよく似通った顔立ちをしているが、被っている帽子の色が異なるので見分けがつく。それぞれ赤色、茶色、黄色、青色、緑色、橙色、紫色の帽子を被った七人のドワーフだった。


 もじゃもじゃとした髪の毛に小さな目。大きな耳と大きな鼻は少しコミカルな印象すら受ける。

 だがその手には自らの身長よりも大きな武器を持ち、警戒心もあらわにこちらを伺っている。手に持っているのは巨大な木槌、石鎚、長剣に斧……。ドワーフはその小柄な体格に反して非常に力持ちで、可愛らしい見た目とは裏腹に非常に警戒心が高い種族なのだ。


「いえ、我々は王都に向かっている者です。密猟者ではありません」


 ヴァイスは前に進み出て、獣人兎族に貰った通行証代わりの木札を見せた。武器を構えたカッツェやレイアとは違って、魔導師であるヴァイスはローブ姿に防具も身に着けず、武器も全く携えていない。どう見ても密猟者らしくない格好をしている自分が言えば、最も説得力が高いだろうと判断したのだ。


「ふむ……」


 ドワーフはまだ疑わしそうにじろじろと――主にカッツェを眺めながら警戒を解かない。ヴァイスがちらりとカッツェに目線をやると、カッツェも慌てて戦斧を仕舞い、両手を広げて敵意のないことを示した。


「……よろしい。では、ついて来い」


 ドワーフはようやく納得した様子で、五人を手招きした。


*

 ドワーフに案内されたヴァイス達は、ほどなくして彼らの町に到着した。


 町は切り立った崖に面しており、崖に掘られた洞窟と地上の両方をせわしなくドワーフが行き来している。

 黒い蛇のように谷中を巡るトロッコのレール。黒と白の煙を交互に上げる製鉄所。職人達が金槌ハンマーで火花を散らす鍛冶工房――。町は住居と作業場がほとんど一体化していて、これまで見たどの町よりも活気にあふれていた。


 町はそのまま採石場にも繋がっているらしく、ドワーフたちが鉄鉱石を掘り出すために精を出して働いていた。ドワーフというのは非常に働き者なのだ。


 町中のそこかしこから、カンカンと鉄を打つ音が聞こえてきた。ドワーフの鍛冶職人が武器や防具を鍛えているのだ。

 ドワーフの造る武器や防具は非常に耐久性が高く、どれも一級品と名が高い。世界中の戦士や冒険者達が一度は手にしたいと熱望する装備品だった。


 大きな樽を棹のようなものでかき回し、酒を造っている者もいた。ドワーフは無類むるいの酒好きで、そのこだわりも尋常ではない。ゆえに、ドワーフの作る酒はやはり一級品として全世界に出回っている。

 一行はそんなドワーフの町を興味深く眺めながら通り抜け、ドワーフの長老の元へと案内されたのだった。



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◆冒険図鑑 No.14:小人族ドワーフ

 人族よりも小さな体をもつ種族。若い頃から老人のような顔をしている。

 手先が器用で、腕力も強い。彼らの鍛えた武器や防具は最高級の品質をもつ。

 また酒好きな彼らが長年の研究の末に造った「ドワーフの地酒」は、世界各国に熱烈なファンを持つほどの人気がある。

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