兎族と洞窟の戦い

第9話 宝石 -洞窟の戦い-・1

 ヴァイスたち五人に向かって、ある頼みがあると切り出した獣人兎ラビット族と獣人鳥ハーピー族の長老たち。果たしてその内容は――?


*

 兎族の長老は腰の曲がった小柄な老人で、鳥族の長老は筋肉質な女性だった。

 兎族の長老はほとんど皺で覆い隠された瞳の奥に、温和そうな光を湛えている。対して鳥族の長老は、鋭く射るような視線が特徴的だった。鳥族の長老はおそらく、かつて戦士として名を馳せたのだろう。年を取った今でもその実力は伺い知れた。

 正反対の性格に見える鳥族と兎族の長老は、交互に話しはじめた。


「旅のお方。昨日はリエーヴルとアリーセの命を救っていただき、ありがとうございました」

「実は……皆さんの腕を見込んで頼みがあるのです」

「頼み……とは?」

「はい。ワシら兎族が掘った坑道の中に、最近魔物が出没するようになったのです。奴はどこからともなく現れ、鉱石を採取する兎族に突然襲い掛かってくるのです」

「我ら鳥族は、薄暗いところでは目が効かない。それに、狭い坑道の中ではどうしても動きが制限されるから、地下の敵には対処しずらいのだ」


 なるほど。鳥族は鳥目なので夜に弱く、空は飛べるが地下には弱い。逆に兎族は暗い地下でも目と鼻がが効くが、空は飛べない。

 兎族は元々温厚な種族でもあり、戦士でも戦闘力があまり高くないようだ。鳥族も通常は温厚な種族なのだが、この地に住む鳥族は特に好戦的かつ優秀な戦士が揃っているように見えた。

 兎族と鳥族は、互いの長所と短所を補い合って、この世界樹の周りを守っているようだ。


「……なるほど、事情はわかった。ヴァイス、構わないか?」


 話を聞いたカッツェが、確認を求めてヴァイスの方を振り返った。

 この中で最も先を急ぎたいのはヴァイスだろうと考えてのことだ。もちろん、とヴァイスは頷く。そもそも他人のことを放っておけるような性格の五人ならば、世界を救おうと考えたりしないし、こんな人助けの旅などしていないのだ。


「よし。宿と温泉の恩返しに、一丁人助けといくか!」

「おーー!」

「ニャ!」


 カッツェの掛け声に、ノエルとカノアが威勢よく右手をグーの形にして答えた。


*

「……では、ここから先が魔物の出没する地点ですか?」

「はい。この先は小人族ドワーフの領地に続く通路になっているのですが……その途中で魔物に襲われる者が多発しています。だから最近はこの通路を使わずに、危険な地上を通ってドワーフ村と行き来しなければならなくて……」


 リエーヴルが恐ろしそうな表情で語った。

 彼女と夫のラヴィが、坑道内をここまで案内してきてくれた。何故か二人の娘アリーセも、恐る恐る付いてきていた。彼女がどうしても一緒に行きたいと聞かなかったのだそうだ。


 坑道は兎族の住居とも繋がっており、縦横に複雑に入り組んで掘られている。兎族の案内なしではすぐに迷っていただろう。


 ヴァイス達は歩きながら、洞窟内を油断なく確認していた。

 この場所は、他の地では考えられないほど魔力と精霊のエネルギーが強く感じられる……これも世界樹の影響だろうか。だが、それ以外に特に変わったことはない。

 松明たいまつの明かりでぼんやりと照らし出される洞窟の壁。そこかしこにはキラキラと光る鉱石や宝石の原石が埋まっていた。中でも紫色の燐光を放っているのは「魔鉱石」だ。


「わかりました。ここから先は私達だけで進みます。あなた方は、村に戻っていてください」


 ヴァイスの言葉にリエーヴル達は素直に頷き、獣人村へと戻って行った。その姿を見送った五人は、緊張した面持ちで洞窟の奥へと向かった。


*

「ニャッ……!」

「……来たな」


 坑道をしばらく進んだ先で、その魔物は現れた。

 洞窟内の少しだけ開けた場所。縦横五mほどの空間で、異形の者がうごめいている。真珠のような乳白色の巨大な軟体生物――スライム状のモンスターが、洞窟の壁に張り付いて土壌を浸食していた。周囲には同じく白っぽい色の発光体が壁全体に点在し、不気味な光を放っている。


「ギュゥウウウウウ!!」


 巨大なスライムが五人に気付き、こちらを向いた!



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◆冒険図鑑 No.9: 魔鉱石

 魔力を含む「魔石」。その魔石の欠片を含む鉱石のことを「魔鉱石」という。魔鉱石を精製・鍛錬することで「魔石」が抽出される。

 魔石がどのようにして地中に含まれるのかはわかっていないが、主に古い地層から魔鉱石が採れることから、魔石が生成されるまでには長い年月が必要なのだと考えられている。

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