グリフィンとの闘い
第29話 グリフィンとの戦い・1
魔王の城に突如現れたグリフィン。
黄金色の鷲の上半身と月白色のライオンの下半身を持ったその怪物は、城の主を守るかのように一行の行く手を阻んでいた。
*
「こっちだぁ!!」
グリフィンの間合いから離れたカッツェが左手に回り込み、炎を纏わせた弓矢を放ってグリフィンの注意を引き付けた。
狙い通りグリフィンはカッツェの方に向き直り、咆哮とともに襲い掛かった。その隙を逃さず、右方からグリフィンの背中に近付いていたレイアがグリフィンを攻撃する。
「グァアアアアア!!」
背中を切り付けられたグリフィンが呻き、上半身だけ捻ってレイアを睨み見た。
「これでも喰らうニャ!」
カノアが怪物に向かって爆発玉を投げつけた。爆発玉はグリフィンの腹に当たると、ボンッと音を立てて煙とともに弾けた。
爆発をまともに受けたグリフィンの体からは、しゅううと紫紺色の煙が上がった。
しかしその煙が散ると、肉体には傷一つついていなかった。驚異的な防御力、あるいは回復力だ。
*
「くそっ……」
より強力な一撃を繰り出そうと、カッツェが戦斧に炎を纏わせた。
遠距離からの攻撃で歯が立たないのであれば、危険を冒してでも怪物の懐に飛び込むしかない。
そう判断したカッツェが構えた瞬間、グリフィンが大きく翼を動かして宙へと舞い上がった。巨大な鷲の羽が空気を打ち付け、立っていられないほどの風圧を起こす。広間の窓硝子がびりびりと震えた。
グリフィンはそのまま広間の上を大きく旋回した。
空中に留まられては、カッツェやレイアの斧や刀で攻撃することはできない。しかしグリフィンの方は、その大きな鉤爪で空中からカッツェとレイアに襲い掛かってくる。二人はその重い一撃を受け止め躱すのが精一杯だった。
グリフィンの翼が天井のシャンデリアにぶつかり、
「くっ……」
足を滑らせないように注意しながら、カッツェがグリフィンの爪を斧で弾いた。
と、一旦後ろに下がり空中で姿勢を低くしたグリフィンが、急滑降してカッツェに襲い掛かった。
*
「うわっ!!」
避ける暇もなく、カッツェがグリフィンの鷲足に抑え込まれた。
カッツェの上半身を丸々呑み込めるであろう巨大な鷲の口が、カッツェの目の前に迫る。
「カッツェ!」
ノエルの叫び声とともに、炎魔導が放たれた。
火炎弾が次々と放たれ、グリフィンの横腹を直撃する。あまりの衝撃にグリフィンがバランスを崩した。
その瞬間を逃さず、カッツェが怪物の鷲脚目掛けて斧を真横に薙ぎ払った。
「ギュアァアアアア!!」
グリフィンの口から雄叫びが漏れる。カッツェの斧はグリフィンの左前脚に大きく喰い込んでいた。さらにノエルの魔導術が追い打ちをかける。
どがぁああああん!!という激しい音とともに、グリフィンが広場に倒れた。
しかしまだ体力のあるグリフィンはすぐに体を起こし起き上がろうとしている。カッツェが傷つけたはずの左脚も、紫紺色の煙が集まって元の状態に戻ろうとしていた。
*
「……はぁっ!!」
グリフィンが完全に起き上がる前に、レイアが高く跳躍してグリフィンの背中に乗りあがった。
ぐさり、と両手の短刀をグリフィンの背中に突き刺し、呪文を唱える。
『我が契約せし土の精霊よ 我が手に集いて 敵を打て!』
レイアの刀が鋼のように固い石で覆われて伸張し、グリフィンの背中から胸にかけてを貫いた。ノエルから教えられた土魔導術だ。それをレイアは自らの刀技と組み合わせて実戦で使えるまでに習得していた。
「グオォオオオオオオ!」
グリフィンは激しく暴れ、体を左右に振ってレイアを振り落とそうとする。その衝撃で、体重の軽いレイアは後方のヴァイス達の元まで吹っ飛ばされた。
*
「ぐっ……!」
「レイア、しっかりするニャ!」
カノアがレイアに駆け寄った。レイアの体は床に散らばった硝子片のせいで傷つき、出血している。
ヴァイスはすぐにレイアに回復魔導を掛けた。
「このぉおおおお!!」
レイアの受けた傷を見て怒りに震えたノエルが、今度は光の矢でグリフィンの体を貫いた。
怪物はその攻撃に再び一瞬怯んだ。が、巨大な鷲の口を大きく開け威嚇するように一歩を踏み出してくる。
グリフィンの体からは紫紺の煙が噴き出し、傷つけられた場所を瞬時に修復していた。
(攻撃が、効かない……!)
何度か繰り返された攻防で、怪物グリフィンの体をいくら攻撃してもすぐに回復されてしまうことに気付く。ヴァイス達の背筋に、冷たいものが流れた。
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◆冒険図鑑 No.29: グリフィン
グリフィン、またはグリフォンとも呼ばれる伝説上の怪物。
語源は古代エルフ語のグリュプス――「曲がった嘴」から来ている。
鷲の部分は金色で、ライオンの部分は白色である。
紋章学では、グリフォンは黄金を発見し守るという言い伝えから、「知識」を象徴する図像として用いられる。また鳥の王・獣の王が合体しているため、「王家」の象徴としてももてはやされた。
伝説では、神々の車を引く役目と黄金を守る役目、二つの重要な役目を持っていると言われている。
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