第18話 最強の武器

 ドラゴンを退治して小人族ドワーフの町に戻った一行は、驚きとともに迎え入れられた。


*

「旅のお方、本当に五人だけであのドラゴンを倒してしまうとは……恐れ入りましたじゃ。密猟者と疑ってすまんかったのう」

「いえ、私達はできることをしただけですので……」


 ヴァイスは謙虚な姿勢を崩さないまま、謙遜の言葉を述べた。

 だが五人とも顔には出さないようにしているものの、ドラゴンとの戦闘で追った傷は相当のダメージだった。

 身体の傷だけならばヴァイスの白魔導術で治療できるが、カッツェやレイアが戦いの中で直接受けた痛みの感覚はしばらく残る。五人の服や装備も、擦り切れたり破れたりしてボロボロだった。

 それだけあのドラゴンが強敵だったということだ。


 本来、ドワーフも戦闘能力はかなり高い一族だ。

 小柄ながらかなりの怪力の持ち主であり、すばしっこく、武器の扱いに長けている。持久力も高く、粘り強い。戦争では巨人族オークと並んで、小人族ドワーフの軍隊は恐れられている。アースドラゴンはそのドワーフ達が束になってかかっても倒せなかったのだから、いかに手強い相手だったかがわかる。

 そのドラゴンの正体が実はモグラだった……ということは、何となく黙っておいた。ドワーフ族はプライドも高いから、あまり気に障るようなことは言わない方が良いだろう。


「ふむ、お前さんたち、装備がボロボロじゃな……。どれ、ドラゴンを退治してもらったお礼に、お前達の武器と防具を新しくしてやろう」

「なにっ? 本当か! それは助かる」


 ドワーフ族の一流の武器と装備を手に入れられることに、カッツェが大喜びした。


*

 長老の一声で、ドワーフの匠の逸品である装備が次々と五人の前に運ばれてきた。


 カッツェには黒剛石鋼ダマスカスでできた斧と鎧。重いがその分圧倒的なパワーを誇る。

 レイアには月光秘ミスリルぎんの双刀と桃色に彩色された鎖帷子チェインメイルを渡してくれた。軽くて物理攻撃にも魔法攻撃にも耐久性が高い。


 ヴァイスとノエルは、二人の手に合わせた魔導師用の杖を造ってもらった。

 ノエルは手に持ちやすい黄金色の短い杖。神金鉄オリハルコン製の杖だ。

 ヴァイスは腰までの高さの長い白銀色の杖。白銀プラチナでこしらえられている。


「わー、なんか"魔法使い"っぽいね!」


 ノエルは初めて手にする自分専用オーダーメイドの杖をぶんぶんと振って喜んでいる。杖には貴重な魔石がはめ込まれており、魔力の消費が抑えられるうえに力の制御も容易になった。


 間違いなく、一品一品が最高級の品である。全て買えば金貨が一山あっても足りないかも知れない。


*

「そういえば、なんでお前たちは今まで杖を使ってなかったんだ?」


 カッツェが、ヴァイスとノエルに素朴な疑問をぶつけてきた。


「弱い杖だと、杖の方が壊れてしまうのです……」

「僕も十本くらい壊した! あと、よく置き忘れて無くしちゃうから、持つのやめたんだ!」

「置き忘れるって、傘じゃないんだぞ……」


 ノエルの言葉に、カッツェが呆れた顔をしている。


 魔導杖にもピンからキリまであって、値段も材質も様々だ。

 一般的な杖は木製で、軽くて丈夫でしなやかな木が選ばれる。木はもともと自然に息づいているから精霊と相性が良く、魔力と馴染みやすいため魔導杖には最適なのだ。だが何度も強力な魔力を通していると、杖の方がその力に耐えきれずに折れたり焼け焦げたりしてしまう。


 ヴァイスはかつて魔導学校時代に指摘された通り、攻撃系の魔導術と相性が悪かった。攻撃魔導を使おうとすると、魔力の燃費が悪くて通常よりも大量の魔力を消費してしまう。だから修行中には何度も自分の杖を壊してしまった苦い経験があり、杖を持つのをやめていた。


 ノエルは魔力の制御が苦手で過剰な魔力を流してしまうから、同じような理由で杖をすぐ壊してしまうのだろう。ヴァイスと出会った二年前には既に魔導杖無しで術を使っていた。

 魔導杖なしでも日常的に魔導術を使ってきた結果、ヴァイスとノエルは杖無しでも自身の魔力を制御できるよう自然と鍛えられていた。


 その点、金属製の魔導杖というのは木製のものより遥かに丈夫で、壊れる心配はほとんどない。ただし金属製の杖は魔力を通せるように鍛えるのが難しく、かなりの高級品になる。それをわざわざヴァイスとノエルに合わせてオーダーメイドで一から杖を作ってくれたのだから、ドワーフはかなりの太っ腹だった。


「でもこの杖は綺麗だから、無くさないよ!」


 ノエルは金色に輝く自分の杖が気に入ったようだ。嬉しそうにくるくると回りながら、キラキラとしたその杖の輝きを楽しんでいる。


「意外とヒカリモノが好きみたいですね」

「子供だな」


 ヴァイスとカッツェはその様子を眺めながら、思わず吹き出しそうになるのを堪えていた。


*

「カノアは、何を頂いたのですか?」


 ヴァイスはカノアの方にも目を向けた。

 カノアは入れた物を小さくする魔法の袋と、特別に彼女の手のサイズに合わせて作られた鉤爪クロウをもらっていた。鉤爪は緋緋色金ヒヒイロカネでできているようだ。

 獣人族は体が丈夫なので自前の牙や爪で戦うことが多い。が、カノアはまだ幼いので爪を保護するためにも武器がある方が安全だった。今までは彼女の手に合う武器がなかったのだ。


 もちろんカノアの武器もかなりの貴重な品なのだが、それよりも彼女は魔法の袋の方を喜んでいた。


「この魔法の袋があれば、もっと色んなアイテムも持ちやすくなるニャン♪」

「……って、重っ! この袋、誰が持つんだよ!」

「もちろん、カッツェにゃん♪」

「おい……」

「質量保存の法則は、くつがえりませんでしたね」


 その肩に掛かる重さがまた増えることになり、カッツェが溜息をついた。


*

「こんなに貴重な品々をもらってばかりでは、逆に申し訳ないのですが……」

「構わぬ。ドラゴンさえいなくなれば、武器や防具などいくらでも造れる。これはほんのお礼じゃ」


 恐縮するヴァイス達を前に、ドワーフの長老は気前の良さを発揮した。

 ドワーフは一度友好になれば、とことんまで尽くしてくれる義理固い一族なのだ。


「あとは、これを持って行くのじゃ」

 最後に、ドワーフの長老が黄金の林檎を五つ持たせてくれた。

「この先に人魚セイレーンの棲む川がある。この林檎を渡せば、川を渡してくれるぞい」


 長老がそう告げたあとに、ふいに怖い顔をした。


「それから……人魚セイレーンには、くれぐれも気をつけるのじゃぞ」

「気を付ける、とはどういう意味ですか?」


 ヴァイスは訊ねたが、ドワーフの長老は首を振って教えてくれなかった。とにかく人魚に会ったら、真っ先に黄金の林檎を見せて話しかけるように、と念を押された。


 疑問に思いつつも、ヴァイス達は貴重な装備の礼を言い、ドワーフの町を後にしたのだった。



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◆冒険図鑑 No.18:ドワーフの武器

 ドワーフは世界各地に広がる巨大な地下情報網ネットワークをもっている。

 大地とともに生きる彼らは貴重な鉱石を含む鉱脈を見つけるのに長けており、仲間同士の情報網ネットワークを通じて世界中から希少な鉱石を集めている。

 それらを鍛錬して作り上げられた武器や防具はどれも一級品であり、世界中の冒険者や戦士たちが欲しがる垂涎の品である。

 ドワーフは秘密主義なため、鉱脈の場所や武器の鍛錬方法などは同族の間だけでひっそりと語り継がれているのだという。

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