第12話 小さな花束・1
無事に洞窟の魔物を退治し終えたヴァイス達は、獣人村の長老たちに成功を報告するため、村に戻ることにした。
*
討伐の報告とともに、スライムの跡に残っていた巨大な宝石も獣人兎族の長老に見せてみた。もともとあの洞窟は獣人兎族が鉱石の採掘用に掘ったもの。宝石のことなら彼らが一番詳しいはずだった。特に、この地に長く住む長老ならば何かわかるかもしれない。
「むむ、これは……」
「魔物が消えたあとに残っていたものなのですが――」
獣人兎族の長老は、ヴァイスが取り出した石を見て眩しそうに目を細めた。人の拳ほどの大きさのその石は、太陽の光を反射して真珠のように柔らかな虹色に輝いている。
「――この虹色の宝石は”
兎族の長老は石を手に取って眺めながら呟いた。
長老の言う通り、こんなに大きく立派な宝石は見たことがない。その希少価値からしても、かなり貴重な石であることは間違いないようだ。
しばらく石を転がしながら眺めたあと、老人はカッツェにその宝石をぽんと手渡した。
「魔獣と魔物を退治してもらったお礼じゃ。これはあなた方がもらってくだされ」
「えっ?! そんな貴重なものもらえんぞ。俺は宝石ってタチじゃないし……」
カッツェが慌てて辞退する。しかし長老は譲らなかった。
「いやいや、我々には他にお礼のできそうなものもない。ぜひ貰ってくだされ」
「うぅ……では有り難く……」
ついにカッツェが折れて、長老から幸せの虹石を受け取った。
およそ宝石のような煌びやかな装飾品とは縁がなさそうなカッツェだが、せっかくの厚意を無下にするのも失礼だ。少し複雑な顔をしながら懐にしまっている。
*
「念のため、この虹石は清めておきましょうか」
長老との話が終わり、少し離れたところでヴァイスは虹石を預かった。魔物の本体となっていた貴石を持ち歩くというのは幾分物騒な気がしたからだ。
手にした石に念を込め、呪いを解くため光の加護の呪文を唱える。
『我が契約せし光の精霊よ 不浄なるものを
呪文の言葉とともに、虹石が一瞬白い光に包まれた。
ヴァイスと契約する精霊の呼びかけに応え、その地にいた小さな光の精霊が近付いてきて虹石の加護についてくれた。これでこの虹石は本当の意味で光の加護を受けた「幸せを呼ぶ宝石」になったのだ。
*
獣人村での一仕事を終え、村を経つ準備を始めた五人。その元に、兎族の少女アリーセがちょこちょこと駈け寄って何かを持ってきた。手に持っているのは、摘みとったばかりの真っ白な花でできた小さな花束だった。
「あのっ……これ、あげる」
「……俺に?」
アリーセは真っすぐカッツェの元に近付くと、白い花束を手渡した。戸惑うカッツェの問いかけに、アリーセは真剣な表情でこくりと頷いている。
「あ、ありが……」
カッツェがお礼を言い終わる前に、アリーセは再びどこかへと駆けていってしまった。――花束を渡したのが照れ臭かったのだろうか?
*
「まぁ、あの子がこれを貴方に?」
「あぁ。お礼を言う前に行ってしまって……」
アリーセのあとから見送りに来たリエーヴルが、白い花束を見て驚いた表情をした。それから頬に手を当て、困ったように呟く。
「白い花束を渡すのは、私達兎族にとってはプロポーズの証なのよ。あの子ったら、ヒョウの魔獣を一人で倒してしまったカッツェさんのことを、ずっと”カッコイイ”って言ってたから……」
「えぇっ、プロポーズ?!」
思いがけず三歳の少女からプロポーズされてしまい、カッツェが慌てふためく。
「いくらなんでも、それはまずい! しかし、知らずに花束を受け取ってしまったぞ」
あまり恋愛に縁のない様子のカッツェは困り果てている。この男は一見チャラチャラしているように見えて、根は真面目なのだ。
「このままもらいっぱなしで立ち去るわけにはいきませんね……。あの子を探してみましょうか」
エルフ族の律義さを発揮して、ヴァイスは精霊を使ってアリーセの行方を探してみることにした。
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◆登場人物紹介 No.2: ノエル(魔導師)
天真爛漫な魔導師の少年。12歳。柔らかな金髪と薄蒼色の瞳が特徴。
攻撃系の魔導術が得意で、その攻撃力はかなりのもの。彼が稀有な魔導術の才能を持っているのは、亡き両親から強力な精霊を引き継いでいるため。
〈北の村〉で生まれ育ち、二年前に移住してきたヴァイスとともにギルドを結成していた。
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