第16話 土竜<アース・ドラゴン>・1

 ドワーフの鉱山に出没する土竜アース・ドラゴンを退治するため、準備を整えたヴァイス達は鉱山にスタンバイしていた。


*

 ドワーフの話によると、アースドラゴンは夜行性で光に弱いようだ。

 光を見せると穴の奥へ奥へと逃げてしまう習性がある。昼間は動かず、気配も察知できないので、居場所が掴めない。夜になってドラゴンが活動し出すのを待つしかなかった。


 カノアとレイアがそれぞれ少し離れた鉱山の壁に耳をつけ、ドラゴンの位置を探る。


「あっち……いやあっちニャ」

「かなり動きが素早いな……」


 カノアとレイアが敵の大まかな位置を指し示した。


「あまり暴れさせると鉱山が穴だらけになっちゃうから、慎重にいかないとね」


 ノエルが呟き、レイアとともに土の精霊に働きかけた。

 ごごごごごご、と地鳴りがして、鉱山の壁に小さな振動が発生し始めた。

 カノアが壁に耳をつけたままドラゴンの位置を音で追う。


「ニャ、ドラゴンが動いてるニャ。やっぱり振動を嫌って、振動のない方に逃げてるニャン」

「よし、もう少し……!」


 ノエルとレイアがさらに力を強め、予め目星をつけておいた広い空洞へとドラゴンを誘い込んでいく。


「俺たちは、先回りだ」


 カッツェとヴァイスは予定通り、移動を開始した。


*

 五人は合流し、暗闇のなかでドラゴン現れるのを待った。ドラゴンを警戒させないよう、明かりはすべて消してある。ノエル達の匂いや気配もまた、ヴァイスの障壁によって消されていた。


 しん、と静まり返った冷たい洞窟の空気が、わずかに震え始めた。ずずずずっという何かを引きずるような音が、恐ろしいスピードでこちらに向かってくるのがわかる。同時にその方向から禍々しいオーラが漂ってくるのも感じられた。


*

 事前の計画通り、最初にレイアが動いた。

 暗闇でも目が効く彼女は音も無く走り出し、至近距離まで引きつけたドラゴンに向かって閃光弾を思い切り投げつけた。

 一瞬で洞窟内に真っ白い光が炸裂し、予め目を閉じていたヴァイス達にすらその感覚が伝わってくる。


「ギャアァアアアアア!!」


 閃光弾をまともにくらい、ドラゴンが動きを止めた。ドワーフから「光が弱点」と聞いてカノアが作った閃光弾が、功を奏したようだ。

 ヴァイスはすぐに呪文を唱え、光の魔導術で視界を確保した。これで他の者も戦闘に加わることができる。


*

「おっしゃぁあああ!」


 待ってましたとばかりに、カッツェがドラゴンに立ち向かっていく。すぐにレイアもそれに続いた。


 坑道内は直径約4~5mほど。その坑道を埋めるように、大きな怪物がのたうち回っていた。

 ドラゴン……と呼ぶのはあまり相応しくないかもしれない。体を覆うのは固いウロコではなく、鋭く尖った茶色く短い毛。二本の前足には長く鋭い黒い爪、顔は先細りで長く、黒く大きな鼻がついている。小さい目が正面を向いて付いているが、何度も瞬きしていて焦点が定まっていない。まだ目は見えていないようだ。


「グオォオオオオオオ!!」


 視界を奪われて暴れまわるドラゴンが、巨大な鉤爪を振り回した。カッツェはそれを斧で受け止め、レイアは機敏にかわす。


 カッツェの斧による攻撃を受け、さらに怒ったドラゴンが巨大な口で噛み付こうとしてきた。その口腔内には人間の肘先ほどの長さの鋭い歯がずらりと並んでいる。もし噛み付かれたら、体を串刺しにされてあの世行きだ。


 カッツェとレイアがほぼ同時に壁を蹴った。

 カッツェが怪物の左脚を、レイアが怪物の右脚をそれぞれ攻撃する。が、怪物の体は思ったよりも固い。

 洞窟内は狭く、爪や牙の攻撃が襲ってくるたび、後ろに飛んで避けるしかない。じり、じり、と前衛の二人が後退し、後衛のヴァイスとノエル、カノアも後ろに下がる。


*

『我が契約せし土の精霊よ 大地を起こし 敵を打て!』


 ノエルが後方から土魔導を放った。


――ずががががっ!!


 たちまち洞窟の壁から土の杭が飛び出して、四方からドラゴンの胴体を襲う。


 そのままドラゴンの体を刺し貫いたか――と思いきや、ドラゴンは一瞬怯んだだけで、ほとんどダメージを追っていないようだ。

 ドラゴンの体が予想以上に頑丈なうえ、威力を出し過ぎては坑道自体壊しかねないため、ノエルもこれ以上の強さで魔導術を放てないようだ。


 だが五人の連携した猛攻撃に怖気づいたのか、ドラゴンが少しだけ後退した。


「逃がすかっ!!」


 穴の奥に退かれては逃げ出されてしまうと、カッツェがすかさず追おうとした。

 ――が、その判断は誤りだった。逆にドラゴンは逆に勢いをつけて前方に突進してきたのだ。巨大な口がカッツェを呑み込もうと迫る。


*

「おわっ、しまっ……!」


 前方に駆け出していたカッツェは咄嗟に止まりきれず、バランスを崩した。


「カッツェ、伏せてください!」


 ヴァイスの声が響くと、カッツェは素晴らしい反射神経を発揮して仰向けのまま後ろに倒れ込んだ。


『光の矢を放て! 〈聖突槍ホーリーランス〉!』


 カッツェの後方から、ノエルの放った光の攻撃魔導がドラゴンの口腔を貫いた。


*

「グォオオオオオ……!!」

「やったか……?」


 だがドラゴンは咆哮し、さらに激しく暴れまわっている。

 痛みで洞窟の壁や天井に頭を打ち付けるほどの大ダメージを追っているようだが、まだ致命傷には至っていない。

 ヴァイス達は気を引き締めて、再び構え直した。



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◆登場人物紹介 No.5: カノア(薬師見習い)

 薬師の修行をしている獣人猫族ケットシーの少女。7歳。

 猫のように気まぐれな性格。基本的に無邪気で楽天家。

 橙色の猫耳と尻尾を持ち、獣の毛皮でできた服を身に着けている。


 戦闘時は直接戦闘に参加して戦うというよりは、アイテムを使った補助や味方の治癒に徹している。白魔導師のヴァイスとともに、薬を使った医療行為も行う。小さいが意外としっかり者。

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