『いちゃらぶタイム』だね

 夜。

 ツバサ神とカンナギ専用という広い食堂で、ちょっとした歓迎会みたいな食事が振る舞われる事になった。

 料理を作ったのは、はしなだ。

 ケガをしたのに大丈夫なのかな、と思ったけど、心配に反して出てきた洋風の豪勢な料理は、十人単位でやるパーティ並みに量が多くて、何より見ただけでもおいしそうで、気が付けば自然と食事が進んでいた。

「あいす、どう?」

「うむ、なかなかおいしいな」

 まともに食事をするのが初めてなあいすも、その出来に満足している様子だった。

 でも、食事で一際目立ったのはセイさんだった。

「おーいはしなー、もう一杯くれー」

「はいはい。本当によく食べるわね」

 セイさんは、もう5杯目のご飯を食べつくした。

 積まれた5つの茶碗が、さらにもう1個増える。

 そして、おかずを取る皿も、回転ずしのごとくどんどん積み重なっていく。

 あれだけあった料理の量も、どんどん減っていく。

 10人分の内6人分を全部1人で食べているようなもの。

 本当に、大食いだなあ。

 バイキングに連れて行ったら、お店が大変な事になりそうだ。

 対するはしなは、セイさんにおかわりを持って行ってばかりで、自分で食べようとしない。くみなはジュンさんと一緒に食べているのに。

「はしなも食べたらどうだ? ケガに効くかもしれないぞ?」

「私はツバサ神よ? 食べても何も起きないし、傷ならもう治ってるから」

 その誘いも断って、はしなは思い出したように額の包帯を自分から取った。

 その裏には、傷跡が全くなかった。

「本当に謙遜するんだから、姉ちゃんは!」

「でも、それがはしなのいい所でもある」

 それを見ていたくみなとジュンさんが、そんな事を言っていた。


 食事の時間は、あっという間に終わってしまった。

 話す事もなくなって、食堂には厨房ではしなが片付ける音だけが響く。

 そんな時、不意に壁掛け時計の鐘がなった。

 時刻は、もう9時になっていた。

「さて、もう『いちゃらぶタイム』だね」

 と。

 椅子に座ったままのジュンさんが、いきなりよくわからない事を口にした。

「え?」

「やったあっ!」

 驚く僕をよそに、待ってましたとばかりにくみながジュンさんに抱き着いた。

「だぁりん、くみな、帰る時のだけじゃ、まだ足りないの……」

「あれは応急処置だったからね、仕方がないさ。今夜はちゃんと相手してあげるよ」

 甘えた声を出すくみなに対し、待ちわびたように笑むジュンさん。

 そのまま、2人は熱いキスを始めてしまった。

 濃厚に唇を吸い合う音が、艶めかしく響き始める。

「えっ、あの、ちょっと――」

 戸惑って視線を泳がせると、厨房の様子が目に入った。

 何とそこでも、片付けが終わったらしいはしなの背後から、セイさんが抱き着いていた。

 しかも、遠慮なくはしなの胸の膨らみを両手で揉んでいる。

「はしな、やっと抱けるぜ……はしなと握手するお客さん見てたら、嫉妬しちまってな……」

「っ、ケガは、大丈夫なの……?」

「平気さ。というか、ケガくらいじゃ我慢できねえよ……」

「もうっ、セイったら……」

 やっぱりそのまま、濃密なキスを始めてしまう。

 2組のキスの織り成す艶めかしさに、空気がどんどん浸食されていく。

「あ、あの――」

「心配すんな。9時からはツバサ神と愛を育む時間なんだ。遠慮しなくていいぞ」

 ますます心臓が高鳴って戸惑う僕に、セイさんが一旦キスの手を止めて説明した。

 いや、遠慮しなくていいって言われても――

「ただ、条件が1つある」

 今度はジュンさんだ。

 キスを一旦止めていたジュンさんは、だぁりん、と何度も呼ぶくみなのキスを頬に受け流しながら、説明した。

「必ず『愛している』と言う事だ。君が本気でそう思っているならね」

 説明は、そこで終わってしまった。

 ジュンさんとセイさんは、またパートナーのキスに没頭し始める。

「愛してるよ、くみな」

「だぁりん、好き……好きっ……好きぃ……!」

 ジュンさんとくみなは、とうとうキスの合間に互いの服を脱がしにかかってしまった。

「愛してる、俺のはしな……っ!」

「ああっ、私もよ、セイ……ッ」

 セイさんも、はしなの体をくるりと回して冷蔵庫に押し付け、やっぱり服を脱ぎながらはしなの服を脱がしにかかってしまった。

 これから、キスより先の事をしようとしている事は、明らかだった。

 その雰囲気に押し流されそうになって、何もできずにいると。

「そういう事だ、ユウ……」

 あいすが、僕の胸元に抱き着いてきた。

 こんな雰囲気でそうされたら、動揺しないはずがない。

「我らも、しようではないか……」

「あいす――うっ」

 甘い目で見つめられたと思うと、強引に唇を塞がれる。

 キスの甘い味が、僕の頭を侵しにかかる。

 力を出せなくなったかのように、あいすに押され、とうとう押し倒されてしまった。

 場所は、並ぶ人の順番待ち用に用意されたかのような、ソファだった。

 一旦唇を離したあいすは、僕の目の前で着ているワンピースを脱いでしまう。

 豊満な胸が、脱いだ反動でぷるん、と大きく揺れて無防備な姿を晒す。

「ユウ、愛しているぞ……」

 あいすのとろけた顔が、また迫ってくる。

 それを見て、とうとう僕の理性も崩れた。

「僕も、愛してる、あいす……」

 そして、自分からあいすの唇を奪った。

 欲望に任せるままに。

 垂れ下がったあいすの胸を両手で揉むと、あいすが塞いだ口から色っぽい声を漏らした。

 それが、僕の欲望をますます加速させていく。

 僕は我も周りの世界も忘れて、裸になっていきながら、あいすの味に溺れていった。


 こうして、食堂は6人の男女が裸で交わる淫らな空間と化してしまった。

 もう昨日の夜からいろいろありすぎて、これから何だか大変な日々になりそうな気もする。

 でも、こんな生活が毎日送れるならいいかな、と僕は変な事を考えてしまっていた――


 #4:終

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