#3 ヤハギファイターコレクション
不甲斐ない姿を見せてしまった……
気が付くと、なぜか僕はベッドの中であいすを抱いていた。
でも、いつベッドに入って、いつ裸になって、いつ始めたかなんて、もうどうでもよかった。
「ん……んむ……っ」
もう何度も絶頂に達して息切れしかけているというのに、覆い被さっているあいすは貪欲に僕の唇を吸って、離そうとしない。
もっとも、離したくなかったのは僕も同じだった。
どんなに息苦しくなっても、どんなに疲れても、あいすとのねっとりした口付けを止めたくなくて、あいすを背中からしっかりと抱いて応えていた。
それくらい、やみつきになっていた。
裸同士の抱き心地にも、大きな胸の柔らかさにも、中に入れる気持ちよさにも。
それに甘いキスが合わさったなら、まさにフルコースを味わっている気分になれる。
しかもそんな彼女が、自分から僕の事を求めているのなら、猶更だ。
だから、無我夢中で欲望を注ぎ込んできた。
何度絶頂に達したか、もう覚えてないほどに。
もっと味わいたい。
できるものなら、ずっとこの味に浸っていたい。
時間の事も場所の事も、何もかも忘れて、僕はあいすの甘い味に溺れていく。
でも、苦しい息と疲れた体はそれを許さなかった。
とうとう、僕とあいすの口が未練がましく離れてしまう。
目が開いて、自然とあいすと目が合う。
僕を間近で見つめるあいすは、まだ足りないとばかりに、物欲しそうな目をしていた。
「ユウ……」
「あいす……」
ああ、本当にかわいい。
洋上迷彩の色をした髪も、元いた飛行隊のマークを象ったイヤリングも、とても似合ってる。
こんなあいすと、ずっと側にいたい。
そう、彼女が望んだように、僕のものに――
湧き上がる衝動に任せて、僕達はもう一度唇を重ねたけど、それはほんの一瞬で終わり、離れたあいすの頭はこてん、と僕の肩の上に落ちた。
さすがに、あいすも疲れたようだ。
僕も遂にスタミナが切れて、あいすを黙って受け止めたまま天井をぼんやりと見上げた。
ちょっと一休みと言った所で、ようやく思考が現実へと戻っていく。
「そういえば……ここはどこだろう?」
見慣れない天井を見上げて、僕はふと思った。
見渡せば、部屋そのものにも見覚えがない。
私室にしては、余計なものがあまりにもなさすぎる部屋。
まるで、引っ越してくる前に片付けられた部屋のような――
「ユウ……すまぬ……」
と。
突然、あいすが肩の上から顔を動かさないまま、僕に謝ってきた。
「え、何?」
「あの時、私は不甲斐ない姿を見せてしまった……」
「不甲斐ない……?」
はて、何の事だろう、と天井を見上げながら振り返ってみる。
でも、思い出せない。
あいすが何か、失敗したような出来事なんて――
「愛で繋がった我らに、不可能などないと思っていたのだが……いざやってみれば、そなたを乗せても5分も飛んでいられなかった……」
「……あ」
そこで、ようやく思い出した。
ここに来る前、謎の軍団と謎の戦闘機に襲われた事を。
その時、あいすは元のF-2戦闘機の姿に戻って、どういう訳か僕が操縦して謎の戦闘機に勝った。
でも、すぐに落ちちゃって、いつの間にか元通りになっていて――
「私の本来の体は不完全で、どんなに思っても体が追い付かなかった……そのまま、私はユウを地上に落とすような真似を……」
そういえば、あいすがF-2の姿に戻った時、翼が錆び付いたようになっていた。
その翼は、僕が公園で最初見つけた時にはなかったものだった。
あれが、不完全な状態だったって事だろうか?
「本当に、すまぬ……これではユウと共に、飛んだ事になどならぬ……」
あいすの懺悔は続く。
相変わらず、顔を見せないままで、あたかも死人が出たような悲しさで。
困った。
そこまで悲しそうにされると、僕はどう言葉をかけたらいいのか、わからなくなってしまう。
「い、いや、僕は、そこまで気にしてないから――」
とりあえず、思った事を恐る恐る口にすると。
『ダメダメー、もう、不器用なんだから』
突然、見知らぬ声が耳に入ってきた。
いや、耳に入ってくる声じゃない。
というか、聞き覚えがある声だ。
『そういう時はさ、強引にキスして、「君と無事でいられただけで、僕は充分だよ……!」って抱きしめちゃえばいいの!』
「誰だ……!?」
あいすも聞こえたのか、むくり、と上体を少し起こす。
さっきまでの悲しさはどこへやら、警戒する様子で目を細め、聞こえる先を探るかのように、部屋を見回している。
「あいす、聞こえてるの?」
「ああ。しかも、近づいてくる気配を感じる……」
あいすの視線は、やがて部屋の奥にあるドアへと定まる。
近づいてくる気配?
そういえばあの時も、あいすは僕の部屋を攻撃してきた謎の軍団に気付いていたような事を言っていた。
まさか、あの謎の軍団がまた――?
「『誰だ!?』と聞かれたならば! 『ノットエネミー!』と答えましょー!」
すると、今度はドアの向こうから声がした。ちゃんと、耳で聞こえる声で。
そして、ドアノブが動いて、乱暴にドアが開かれた。
「じゃじゃーん!」
陽気に声を上げながら姿を現したのは、1人の女の子だった。
金髪をツインテールにした、サロペット姿。黄色と黒のチェッカー模様のヘアバンド。
その姿には、見覚えがある。
そうだ、あれは――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます