強引だが離陸する!

『闇を祓いし、黄金こがねの刃! 92-7937、くみな! ただいま参上っ!』

 頭の中へ直接響く、くみなの声。

 セイバーの姿に戻ったくみなは、早速反転して戻ってくると、人型荒ツバサの群れへ向けて機銃掃射を浴びせた。

 群れはたちまち吹き飛び、次々と光となって消えていく。

 その上を、くみなは堂々と飛び去って行った。

『さあ、今の内に!』

 聞こえてきたジュンさんの声に促され、僕はあいすの手を握ったまま逃げる事にする。

 くみなは上昇して、上空で待ち構えた2機の戦闘機型荒ツバサに飛び込んでいく。

 あっという間に、空中戦が始まった。

 でも僕達にそれを見届ける余裕はない。すぐににっしーの中に戻る。

「はしな、ツバサきゅうをくれ」

「えっ……セイ、戦う気なの!?」

「他に誰がいるんだよ?」

 機内では、セイさんとはしながそんなやり取りをしていた。

 セイさんの提案に、はしなは難色を示している様子だった。

「でも、ケガしているのに――」

「バカ言うな。歩けないほどひどい訳じゃねえんだ」

「……わかったわ。これ以上止めても無駄みたいね」

 はしなは仕方ないとばかりに、セイさんの前に右手を差し出す。

 するとその手に、セイバー型の銃が現れた。

 くみなが持っていたものと同じだけど、塗装ははしなのブルーインパルス塗装だった。

「でも無茶はしないでね」

「わかってる。安心して待ってろ」

 セイさんははしなと軽く口付けを交わすと、ツバサ弓というらしい銃を受け取って外へと飛び出していく。

 その後ろ姿を、はしなは不安そうに見送っていた。

 僕は不思議に思った。

 はしなだって戦闘機のはずなのに、どうして戦わないんだろう、と。

 いや、そもそもあの銃――ツバサ弓って人にも使えるものなのかなって思った所もあるんだけど。

「そなた……戦わぬのか?」

 それは、あいすも同じだったようだ。

 あいすに問われたはしなは、少し動揺した様子を見せながらも、答えてくれた。

「それが、セイとの――みんなとの約束だから」

「約束?」

「私を傷付ける事も、手を汚す事もさせない、純粋なアクロ機として生かしてやるっていう、約束だから。だから、くみなやセイさんが、体を張って、代わりに――」

 言いかけた時、すぐ真上を轟音が通り過ぎた。

 くみなだろう。

 僕は思わず窓を覗き込んで、様子を見てみた。

 くみなは2機の戦闘機型荒ツバサに、追われる立場になっていた。

 1機が発射した黒い弾丸が、くみなの翼を貫いたのが見えた。

『あうっ!』

『くみな、大丈夫か?』

『なんのっ、まだ行けるっ!』

 なぜか聞こえてくる声。

 くみなはまだ大丈夫そうだけど、被弾した翼からは僅かに煙を噴いているのが見えた。

 その後も、よくは見えないけどくみなが追い回される状態が続いている様子。

 2対1じゃ、さすがに不利か。

「くみな……」

 それを察知してか、不安そうにつぶやくはしな。

 無事を祈るように、そっと目を閉じていた。

 何だか、歯がゆいな。

 こんな時に、何もできないなんて。

 僕にも何か、力になれる事があれば――

「おい、ユウ君! ちょっと頼まれてくれないか!」

 そんな時だった。

 突然、クゲさんに声をかけられたのは。

「何ですか?」

「これからにっしーは、強引だが離陸する! だからその間、あそこから空を見張っていて欲しいんだ!」

 クゲさんが指差したのは、コックピット近くの真上にあるドーム型の窓だった。

 あれって確か、天測用の窓だったっけ。太陽とか星を見て自分の位置を知るための。

「そしてその事を、くみなに伝えて欲しい!」

「え、伝えるって、どうやって?」

「あいすと手を繋いでいるだろう?」

 言われて、僕は自分がさっきからずっとあいすと手を繋ぎっぱなしな事に気付いた。

 でもそれと、何の関係が?


 右側のプロペラが、ゆっくりと回り始めた。

 ぶるんぶるん、と古臭いエンジン音が響き始め、機体にも揺れが伝わってくる。

 近くではセイさんが、単身人型荒ツバサの群れを相手にしている。

 その上空でも、未だ空中戦が続いている。

 くみなは2対1という不利な状況でも、意外と粘り強く戦っていた。

 僕は天測用の窓から、それぞれの孤軍奮闘な状況を確かめる事ができた。

『にっしーのエンジンが動いている?』

 ジュンさんが、その様子に気付いたようだ。

 早速、僕が呼びかけた。

「聞いてくださいジュンさん! これからにっしーは急いで離陸します! その間援護してください!」

『……なるほど、わかった。聞いたねくみな?』

『合点承知!』

 通じるか心配だったけど、ちゃんと通じた。

 本当だった。

 あいすと手を繋いでいれば、ツバサ神同士で無線通信みたいな事ができるなんて。

「いいか、ツバサ神ってのはな、『キリョク』っていうエネルギーを使ってさまざまな力を行使できるんだ」

「キリョク、ですか?」

械のと書いて『機力』だ。今使ってるのは機力通信。無線通信の代わりだ。ツバサ神の体のどこかに触れていれば、人も恩恵を得られる」

「そうだったんですか」

 足元にいるクゲさんの説明を聞いて、納得した。

 あいすと触れていた時に頭に直接聞こえてくるような声がしたのは、機力通信によるものだったからって訳か。

「機力があれば武器を作り出して戦う事も、燃料なしで飛ぶ事も、滑走路なしで飛び立つ事もできる。だが乱用はさせるなよ? 機力通信くらいなら消費が少ないが、飛行や戦闘となると桁違いだからな」

「え、じゃあにっしーは大丈夫なんですか?」

「にっしーはちゃんと燃料満タンだ。心配はいらない」

 クゲさんの説明を聞いている間に、左側のプロペラが回り始めた。

 にっしーの両方のエンジンが、無事にかかった。

 でも、飛行機はエンジンかければすぐ発進、って訳にもいかない乗り物だ。一度飛び立ってからトラブルが起きても、着陸するまで対応はできない。だから、いろいろな機能に異常がないかチェックする必要がある。

 大体それは、普通にやれば10分はかかる。

「たっくーん。にっしーは大丈夫だからぁ、そんなものすっ飛ばしても大丈夫ですわぁ。ささと離陸しちゃいましょぉー」

 とはいえ、にっしーのそんな声が聞こえる辺り、悠長にチェックする時間がない事はわかっているようだ。

 もっとも、にっしーのおっとりさが逆に不安になるけど。

「問題は、くみながどこまで持ち応えられるか、だな……」

 それよりもクゲさんは、くみなの事を心配そうにつぶやいた。

「何か、心配事が?」

「くみなは、燃料なしで戦ってるんだよ」

「ええ!?」

「だからあれだけ戦ってりゃ、そろそろ――」

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