脱出成功ですわぁ

 クゲさんが答えていた頃。

 機力通信で、何やら警告音のようなものが聞こえてきた。

『くっ、もうここまで――!』

『なんの……っ、ここから、逆転するのが、お約束ってもんよ……っ!』

 ジュンさんが歯噛みしているのがわかる。

 そしてくみなの声は、明らかに苦しそうだった。

 くみなはまだ、2機の戦闘機型荒ツバサに追いかけられている。

 内1機が、ミサイルを発射した。

 くみなのエンジンノズルへ、吸い込まれるように飛んでいく。

 当たる、と思ったその瞬間。

 くみなは今までにないほどの鋭い急降下旋回で、ミサイルを回避。

 その勢いを保ったまま、ミサイルを撃った相手の背後に回り込む。

 相手は見失ってしまったのか、気付くのが遅れた様子だった。

 無防備な腹目がけて、くみなの銃撃。

 全身をハチの巣とされた相手は、光となって砕け散る。

 1機やった。

 残りは、あと1機。

 ようやくタイマンに持ち込めた所で、にっしーのエンジンが一瞬唸った。

 どうやら、そろそろ移動を始めるらしい。

「あいす! セイさんを迎えに行って!」

「ああ」

 僕が呼びかけると、あいすが僕の手を離して、素早くにっしーから飛び降りた。

 そして、地上で孤軍奮闘中のセイさんに加勢する。

 F-2型のツバサ弓を手に、援護射撃を加えながら。

 セイさんに駆け寄ったあいすが、何を言っているのかはわからない。

 ただ、大きく手招きしたあいすに頷いて、人型荒ツバサの群れに対して背を向けたのがわかった。

 敵の前で普通そんな事をすれば、自殺行為だ。

 でも、背を向けた直後、空からの銃撃が人型荒ツバサの群れを薙ぎ払った。

 くみなの機銃掃射だった。

 空でタイマン戦を繰り広げている合間に、援護してくれたんだ。

 それもあって、あいすはゆっくり動き動き始めたにっしーに、セイさんを無事連れ込む事ができた。

 それを見計らって、クゲさんがドアを閉める。

 さあ、後は離陸だ。

「あそこでいいですわぁ。大丈夫、C-47一族を舐めないでくださぁい」

 にっしーの声が聞こえる。

 すると、機体はあろう事か滑走路じゃなくて、駐機場エプロンに隣接する原っぱに入った。

 すると、エンジンが一気に出力を上げた。

 がくん、と尾部が持ち上がって、胴体が地面と水平になる。

 まさか、ここから離陸!?

 いくら滑走路へ行く道が長いからって、そんな事しなくても――!

 がたがたと揺れる離陸滑走をしている間に、僕は後方から迫る機影を見つけた。

 戦闘機型荒ツバサの片割れだ。

 見る見る内に迫ってくるそいつは、離陸させまいとこっちを狙っているのは明らかだった。

「後ろから来る!」

 僕は声を上げた。

 それもあってか、にっしーの加速が早まったような気がした。

 でも、所詮はプロペラの輸送機。いくら加速した所で、振り切れるはずもない。

 性格に狙いを定めるつもりか、さらに迫ってくる荒ツバサ。

 逃げられない!

 一瞬そう思ったけど、直後荒ツバサは背後から起きた爆発で、消滅した。

 その後ろから現れたくみなが、僕達の真上を通り過ぎていく。

 間に合った。

 くみなが、来てくれたんだ!

 くみなに邪魔者を払ってもらったにっしーは、ようやくふわり、と空へ浮かび上がった。

 車輪ギア格納。

 機体が、ゆっくりと上昇していく。

 無人の松島基地がどんどん小さくなっていくのを見届けて、僕は天測用の窓から降りた。

「ふう……」

 ぺたん、とその場に座り込む。

 安心したせいで、腰でも抜けたのだろうか。

「ユウ、大丈夫か?」

「いや、何か、すごくハラハラしちゃったからさ……」

 心配してきたあいすに、とりあえず僕はそう答えて笑って見せた。

 そんな僕の周りでは、乗り込んでいたメンバー達の歓声が上がっていた。

「脱出成功ですわぁ、たっくん!」

 そう言って、タクヤさんとハイタッチしているにっしー。

「やれやれ、一時はどうなるかと思ったぜ……」

 妙に疲れたような事を言って、ぺたんとはしなの隣に座るセイさん。

「ええ、本当に、よかったわ」

 安堵しきった様子のはしな。

 それぞれが思い思いに、戦いが終わった事を安堵していた。

 そんな時、隣から轟音が聞こえてきた。

 窓の外を見ると、そこにはくみながいた。

 速度を合わせるためか、少し機首を上げた姿勢で、にっしーの横に並んでいる。

 そのまま飛び続けるのかと思いきや、その姿が光に包まれて、目の前から消えてしまった。

 直後、どん、と何かが着地するような音が機内でした。

 見ると、機内にはいつの間にか、ジュンさんとくみなの姿があった。

「う、うう……」

 でも、くみなは明らかに弱った様子で、力なく倒れそうになった所をジュンさんの腕に受け止められた。

 チョーカーにある水晶が、赤く点滅している事に気付く。

 あれは、あいすの時と同じ……?

「みんな、大丈夫だったかい」

「はい、おかげさまで」

「そうか、よかった」

 少し疲れた様子でセイさんと会話するジュンさん。

「だ、だぁりん……」

 すると。

 今にも消えてしまいそうな弱った声と共に、くみなの手がジュンさんの頬に伸びた。

 ジュンさんを物欲しそうに見上げるその目は、艶めかしい色を帯びている。

 そんなくみなに、ジュンさんは優しく微笑んでその金髪をそっと撫でた。

「くみな、よくがんばった。ありがとう」

「じゃあ、ごほーび、ちょーだい……?」

「もちろん」

 2人の顔が、どんどん近づいていく。

 そのまま、目を閉じて深い口付けをし始めた。

 周りの人目もはばからず。

 ねっとりした音を響かせる、濃厚な口遣い。

「むぅ、だぁりん、だぁりん……っ」

 そして、くみなの色っぽい声と息遣い。

 そんな様を見せつけられたら、恥ずかしくならないはずがない。

 とうとう、自分からサロペットの紐に手をかけて、脱ぎ捨ててしまった。

 桃色の下着を着けたふくよかな尻と、白くて細い素足が、露わになる。

「え、ちょ、ちょっと――!」

 僕は、思わず声を上げてしまった。

 ま、まさか、このままここで――!?

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