ようこそ新入り君

 荷物が、R4D-6――にっしーに積み込まれていく。

 でも、側面のドアを開けてそこから荷物を入れるという作業は、とても不便そうに見えた。

 なぜなら、斜め上に起こされた胴体が、地面に対して斜めになっているせいだ。おかげで大きな荷物を入れたくてもフォークリフトが使えない。

 さぞかし大変そうな作業員達の邪魔にならないように、僕とあいすは機内に乗り込む。

「やあ、ようこそ新入り君」

 すると、髭を生やした男の人がにこやかに出迎えてくれた。

 どこかで聞いた声。

 そうだ、はしなが飛んでいた時ナレーションをしていた声に似ている。

「どうも。何だか、床が斜めで作業大変そうですね」

「何、その不便さこそがレトロの味ってもんさ」

 僕が挨拶すると、男の人はにかっと笑って答えた。

「俺はクゲだ。イベントコーディネーターをやってる」

「イベントコーディネーター、ですか?」

「まあ、ショーではナレーションをしているな」

「ナレーション……そうか、あの声はクゲさんのものだったんですか」

「そうだよ。さ、入って入って」

 クゲさんに促されて、客室へ入っていく僕とあいす。

 機内は路面電車のように、側面に座席があるタイプだった。

 でも天井と壁は骨組みむき出しで武骨。

 しかも、右側に積んだ荷物を寄せて、左側の隙間に人が乗る形になっているから、結構窮屈だ。やっぱ軍用機だからこうなるか。

 クゲさんは、どういう訳か斜めの床を上がっていって僕達をずっと奥――コックピットのすぐ近くまで案内する。

「おーい、たっくーん?」

 そして、コックピットに向かって呼びかける。

 すると、コックピット左側からパイロットと思われる人が姿を現した。

 サングラスをかけた若い男の人だ。

「新しいカンナギとツバサ神のご搭乗だ」

 クゲさんは、そう言って僕達を紹介した。

 どうやら、パイロットに紹介するつもりらしい。

「あ、どうも、キヨト・ユウです。こっちはあいす。で、あなたは――」

「私のパートナーのぉ。タクヤですわぁー」

 と。

 僕の問いかけに代わりに応えたのは、コックピット右側から出てきたにっしーだった。

「ほら、これぇ」

 にっしーは、自分の左手を見せると同時に、パイロット――タクヤさんの右手を取って僕達に見せる。

 その薬指には、確かに金色の指輪が付いていた。よく見ると「9024」とも書かれている。

「たっくん、何か一言あるぅ?」

 にっしーが顔を覗き込むようにして問うと、

「言いたい事は全部言われた」

 ぶっきらぼうにそれだけ答えて、僕に右手を差し出した。

「よろしく」

 挨拶も、一言だけ。

 僕はちょっと、手を取るべきか戸惑った。

「はは、心配するな。たっくんは無駄な事を言わないだけだ。お客思いのいい奴だし、にっしーとも毎日甘々――痛っ!」

 フォローしてくれたクゲさんの肩を、少し乱暴に叩くタクヤさん。

 余計な事言うな、と言わんばかりに。

 でも、それは気さくな友人同士のやり取りって感じで、不思議と安心感があった。

「そういう訳だ。よろしく」

 再度、握手を求めるタクヤさん。

 よく見ると、サングラス越しに感じる視線は、それほどきつくない。

「はい、よろしくお願いします」

 僕は迷わずに、その手を取って握手した。

「そなた、元の姿なのになぜ人の姿を保っているのだ?」

「これは機内限定のぉ、立体映像みたいなものですわぁ」

 一方で、あいすとにっしーは、そんなやり取りをしていた。


 荷物の積み込みが終わり、メンバーがにっしーに乗り込み始めた。

 その中には、包帯を巻いたはしなと上着を着たセイさんの姿もあった。

「すまねえな、はしな。普通に操縦して帰りてえけど、こんなケガじゃあな」

「いいのよ。体の方が大事だもの」

 そんな事を言いながら、先に座っていた僕達の隣に座る。

 いよいよ出発か。

 こんなレトロな飛行機に乗って飛ぶのは初めてだから、乗り心地がどんな感じなのか気になる所だ。

 というか、僕はまともに旅客機に乗った事もない。飛行時間がどんな感じなのかも、全く持ってわからない。

 だから、隣に来たセイさんに聞いてみる事にした。

「セイさん、ここからつくも島までどのくらい時間がかかるんですか?」

「ん? 時間かあ。まともに飛んだら半日くらいはかかるかなあ……」

「え、そ、そんなに!? それじゃつくの夜中になっちゃいますよ!?」

「まあでも、から心配すんな」

「……?」

 説明がよくわからない。

 まともに飛んで半日、でも実際はそんなにかからない、なんて。

 何だかショートカットする手段でもあるとでも言っているかのような――

「はぁーい。皆さぁーん、にっしーは間もなく飛び立ちますわぁ。機内はくれぐれもぉ、汚さないようにしてくださいねぇー」

 そんな時、にっしーが機内に呼びかけてきた。

 お。という事は、いよいよエンジンが回るのだろうか。

 その様子をちょっと見てみたいなと思って、振り返って窓から翼の様子を見ようとした。

「……ん!?」

 急にあいすが、何かに気付いたように声を上げて、窓を覗き込んだ。

 妙に真剣な眼差しで、何かを探している。

「どうしたの?」

「……奴らが来るぞ!」

 そしていきなりそう告げて、外へ飛び出していった。

「えっ、ちょっと、待って! どうしたの!」

 僕は慌てて後を追いかけようとしたけど、隣に座っていたセイさんの足に躓いて、危うく転びそうになった。

 僕はセイさんに謝ってから、また追いかけようとした。

「おい、どうした?」

 何かを察したのか、セイさんが僕に話しかけてきた。

 僕は手短に、事情を説明する。

「何か、あいすが『奴らが来る』って言い出して――」

「奴ら……?」

 その言葉に引っかかるものがあったのか、セイさんは隣のはしなと顔を見合わせた。

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