南の、孤島?
復興感謝イベントは無事に終了。客達が一斉に帰り始める。
数少ない外部からの参加者であるヤハギファイターコレクションも、撤収の準備に取り掛かり始めた。
ブースは既に畳まれて、荷物も運び出されていく。
その様子を見ながら、ジュンさんとこれまでのいきさつについて話していると、
「そうか。君は今、天涯孤独で無職なのか。ならば我々の下で働けばいい」
ジュンさんが、いきなりそんな事を提案してきた。
「ええっ、いいんですか!? 衣食住も保証するのに!?」
「ああ。ごたごたのせいで手持ちの金もないだろう。祝い金みたいな形で給料を先払いしよう」
「あ、ありがとうございますっ!」
僕は思わず頭を下げた。
なんて太っ腹なんだ。しかも面接みたいなのをせずにとか。
こういうのを、コネ入社って言うんだろうか。
「どの道、住み込みで長い付き合いになるんだ。こちらとしてもいろいろ手間が省けて済む」
住み込み、か。
つまり仕事場の寮で暮らすって事だから、本来なら引越しの手続きとかいろいろしないといけない訳か。
荒ツバサに襲われて生活に必要なものをいろいろなくした事が、逆に幸運した。
「我々の本拠地は、南の孤島だからね」
「南の、孤島?」
と。
ジュンさんの気になる言葉を口にした。
すると、ジュンさんは思い出したように軽く笑ってから、説明した。
「そうだ、言っていなかったね。我々の本拠地は太平洋にある『つくも島』という島にあるんだ。正真正銘の絶海の孤島だから、生活必需品とかの配達がちょっと面倒でね。でも暮らしやすい場所だから、ユウ君もすぐ気に入ると思うよ」
「つくも島、か……」
聞いた事ない名前だな。
でも、国内旅行さえ高嶺の花な世界にある僕にとってみれば、南の島なんて夢の世界だ。
青い海に、白い砂浜。風に揺れるヤシの木。
そんなリゾートの世界で暮らせると考えただけで、心が躍った。
「あいす、これから行くのは南の島だって」
「島、か……」
でも、あいすはどうも浮かない表情をしている。
どうしたんだろう。何か気に食わない事でもあるのだろうか。
その答えは、すぐに出た。
「という事は、海に囲まれているという事だな?」
「まあ、そうだね」
「ならば、津波が来たらどうするのだ?」
「へ?」
あいすの深刻そうな問いかけに、僕は声を裏返してしまった。
こんな時に、津波の心配!?
あいすはずい、と身を乗り出して、僕に訴えかける。
「まさか、島ごと呑まれてしまう訳ではないよな?」
「いや、そんな事はないと思うよ……?」
「ないとは言い切れないではないか! 日本列島よりずっと小さな島が津波を被れば、すぐ消えてしまう事くらい、私にも想像できるぞ!」
あまりにもの必死さに、それは考えすぎだって、と言う事ができなかった。
それだけ、あいすは津波が怖いのか。その気持ちは、まあわかるけど。
「そんな所には行きたくないぞ! ツバサ神とやらになったのに、また津波に呑まれるのはごめん被る!」
あいすはぶんぶんと首を横に振る。
僕はどう説得すればいいのかわからなくなってきて、とにかく思いついた事から言う。
「いや、大丈夫だから。そこまで心配しなくても――」
「ならば、もし津波が来たらユウはどうするのだ?」
う。
こんな時に答えに困るような質問を。
どう答えようか迷ったけど、とりあえず基本的な事を答える。
「そりゃあ、もちろん、逃げるよ。高い所に――」
うーん、ダメだ。
あいすの目がまだ疑い深い。
そもそも逃げ場などあるのか、と言ってるみたいだ。
「いや、あるって! 逃げられる場所くらい! ちゃんと対策くらいはしてあるはず――!」
こういう時、どう言えばいいんだ?
迷った時、脳裏に最近誰かが言っていた言葉が思い浮かんだ。
あれって、確か――
「とにかく! あいすと無事でいられれば、僕は充分だよ!」
そう言って、僕は無意識にあいすを強く抱きしめた。
な、とあいすが驚く声と、胸に押し付けられる柔らかい感触。
って、何やってるんだ僕!?
僕、言われた事をとりあえず真似してみただけなのに――って、そうだ、言ってた。
こう言った後抱きしめちゃえばいいって。
それに、言ったのはくみなだった、と気付いた時には、もう後の祭り。
「そうか、津波が来ても、私を守ってくれるのだな……?」
あいすは、僕の胸元から顔を上げて問いかける。
上目遣いで、そんな事を安心したような声で言われたら、ノーなんて言えない。言える訳がない。
「も、もちろんだよ……僕は、君のカンナギなんだから……」
僕はあいすの顔から目を逸らしながら、そう答えた。
ダメだ、苦笑いしかできない。
こういう事、もっと責任を持って言えるようになりたいな、って考える僕って、変かな?
見ると、ジュンさんが遊ぶ子供を見るような温かい目で僕達を見守っている。隣にはくすくすと笑うくみなの姿も。
「と、とにかく! 行こう、つくも島へ!」
恥ずかしくなった僕はそう言って、あいすを無理やり離す。
でもあいすは、安心しきった様子で、ああ、と頷いてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます