『永遠の愛』を誓う事ができるかい?

「私にはぁ、いくつか種族名がありますわぁ。最初はぁ、TC-47B。次にぃ、R4D-7。そしてぇ、この国でぇ、R4D-6『まなづる』って種族名をいただきましたわぁ」

「え、って事は、じゃあ――?」

「私はぁ、アメリカはダグラス社生まれの自衛隊機なのですわぁ」

 愕然とした。

 にっしーは零式輸送機じゃなくて、その大本――アメリカのC-47輸送機。

 ベストセラー旅客機を基にしたC-47は、大戦で活躍した後も世界中で活躍した事は知っていたけど、まさか、海上自衛隊でも使われていたなんて。

「じゃあ、どうして零式輸送機なんかに――」

「少し前に、戦争映画の撮影協力で零式輸送機に扮してもらったんだ。その塗装のまま来たのは、まあ映画の宣伝も兼ねたファンサービスって奴さ」

 はしなと一緒に来ていたセイさんが、その疑問に答えてくれた。

 にっしーは、それを聞いてかにこやかに笑う。

 映画の撮影で、零式輸送機役になっていたって事なのか。

 それは、わかるけど――

「じゃあ、本物の零式輸送機って、いないんですか?」

「残念ながら、いない」

 答えたのは、ジュンさんだった。

「君も知っているだろう。敗戦後、この国は武装解除され、残された兵器が徹底的に処分された事を。当時いたツバサ神も、それによって全てが葬られてしまったんだ。つまり、大戦中のツバサ神は、もう絶滅している」

「絶滅……!?」

「荒ツバサが蔓延るようになったのは、ちょうどその後の事だ。以来、この国ではツバサ神は覚醒する前に狩られていき、もはや絶滅危惧種と化している。くみなも、はしなも、にっしーも、それを逃れた数少ない生き残りなんだ」

「そんな……」

 そういえば、ジュンさんは言っていた。

 この国で年代物軍用機ウォーバードがないがしろにされてきたのはおかしいと思わないかい、と。

 確かにおかしい。

 破壊したものを忘れさせる怪物が蔓延って、多くの自衛隊機が忘れ去られてきたなんて、どう見てもおかしい。

 あいす達は、今こうしてここにいるのに……!

「だからこそ、我々はこうしてツバサ神を保護する活動をしているのだが、荒ツバサとまともにやり合おうとは思っていない。戦力差がありすぎるし、人間に直接害を加えないから自衛隊も討伐に消極的だ。何より荒ツバサを完全に滅ぼす事は、恐らく不可能だろう。我々がどんな活動をした所で、全ての人から好かれるようになる事など不可能だからね。光ある所には、必ず闇がある。いくら光を強くしても、影は濃くなるだけだ」

「……」

 でも、言葉が出ない。

 荒ツバサを滅ぼす事は、不可能だなんて。

 自分は、とんでもない世界に足を踏み入れてしまった事を、今更ながら思い知らされる。

「さて、ユウ君。君はあいすと共に居続ける限り、荒ツバサという闇から逃れる事はできない。あいすを完全復活させようとすれば、荒ツバサが行く手に何度も立ちはだかるだろう。我々のように、何十年もかかるかもしれないし、心折れる事もあるかもしれない」

 ジュンさんの視線が、まっすぐ僕を射抜く。

 僕自身を試すように。

 その視線に、僕は怯んで何も言えなくなってしまう。

「それが、一体何だというのだ」

 でも。

 その時力強く声を発したのは、あいすだった。

「その程度の事で折れるほど、私の思いはやわでなはい」

 あいすは、僕の手を強く握り絞めた。

 自分の思いを、示すように。

「あいす」

「案ずるな、ユウ。私は何が起きようとも、そなたと添い遂げる。練習機型とはいえ、私も戦闘機だ。そなたのために戦う覚悟なら、とうにできている」

 あいすの揺るがぬ決意を宿した、氷のような瞳。

 手から感じる、温かい体温。

 それが、とても心強かった。

「そう! 長い逆境の中でものを言うのは、愛の力だよ! 愛さえあれば、どんな試練だって乗り越えられるっ! このくみなが保証するんだから!」

 くみなが、応援するように拳を作って声を上げる。

「俺だって、さっきはしながあんな目に遭ったけどな、飛ぶのを辞めるつもりなんて毛頭ねえ。俺とはしなの夢は、まだ始まったばかりなんだ。あんな事が遭ったくらいで、挫折なんてしたくもねえ。だから何度でも足掻いてやるさ」

 セイさんも、はしなの肩を抱き寄せて、僕に訴える。

 抱き寄せられたはしなは、少し驚いてセイさんの顔を見ていた。

「だからユウ君、君に聞きたい事はただひとつだ」

 最後に、ジュンさんが僕に問うた。

「君はあいすと、文字通り『永遠の愛』を誓う事ができるかい?」

 まるで結婚式に出てくる神父さんのように。

 何の心の準備もなしにそんな事を言われたら、当然戸惑う。

 しかも、普通に結婚式で言う言葉と同じでも、重みはかなり違う。

 僕はもう、寿命じゃ死なない。

 これから文字通り、あいすと永遠に生きる事になる。

 しかも、あいすを完全復活させるためには、荒ツバサとの戦いは避けられない。

 でも。

 この手のぬくもりがあれば、不思議と怖くない。

 あいすは僕の事を大切に思ってくれる。

 なら僕も、そんなあいすと添い遂げたい。

 あの時の約束を果たすために、元の体を取り戻させてあげたい。

 だから――

「僕にはどの道、他に行く場所なんてどこにもありません。だから――あいすの側にいます。あいすとの永遠の愛を、誓います!」

 僕は、あいすの手を強く握り返しながら、はっきりとそう答えた。

「だから、行かせておくれ。ヤハギファイターコレクションに。我らのためなら、協力を惜しまないのだろう?」

 そして、あいすも安心した様子でそう告げた。

「契約成立、だね。代表として、君達を心から歓迎しよう」

 ジュンさんは、安心した様子で頷く。

「よしっ! これで新たな仲間がまた1人! あ、2人か」

 くみなは、友達が増えた子供のように無邪気な声を上げる。

「はしな、後輩がああなんだ。俺達も挫けてる場合じゃないぞ」

「そうね、セイ……」

 そして、はしなの表情からも、曇りが少しだけ解けて緩んだ。

 その時だった。

「あら……?」

 はしなが、自分の左手を不思議そうに覗き込む。

 見ると、薬指にある指輪が、ぼんやりと光っている。

「指輪が、光ってる……?」

 見ると、くみなのものも、同じように光っていた。

「私のもだ……?」

 そして、あいすのも。

 3人の指輪が、まるで共鳴するかのように光っていた。

 どうしてなのか、僕にはわからない。

「仲間ってぇ、いいものですわねぇ……」

 でも。

 そんな感想を言うにっしーの左手に光るものは何もなく、

「リーダー、これって……?」

「ああ、もしかしたら――」

 ジュンさんは、セイさんと一緒に何か心当たりがありそうな事を言っていた。

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