許さんっ!

 急いで階段を下りて、マンションの外へ出る。

 マンションを見上げると、僕の部屋がある部分からまだ黒煙がもうもうと上がっているのが見えた。

「さっきの爆発、一体何だ……?」

 訳がわからない。

 爆発する直前、窓の外からミサイルみたいなのが飛んできたのが見えた。

 あれは、一体何だったんだ?

 仮にあれが本当にミサイルだとしたら、なんで僕達がそんなテロまがいの事をされなきゃならないんだ?

「お前達の、仕業か……!」

 と。

 低く威嚇するようなあいすの声。

 見れば、あいすはマンションを見ていない。

 見ているのは反対側――僕の背後だ。

 そこにいたのは――

「な――」

 息が止まってしまった。

 そこにいたのは複数の人――のようなものとしか言いようがない。

 何だか女の子っぽく見えなくもないけど、全身が赤黒い影で覆われていて、はっきりした姿が見えない。

 手には何か、矢尻型の羽のようなものがついた奇妙な銃を持っている。

 そんな奴が、まるでゾンビみたいなおぼつかない足取りで、こっちに歩いて来ていた。

「しつこいぞ、何度も何度も……しかも、此度は我らの幸せなひとときを邪魔するとは――」

 あいすは、謎の軍団を不快な虫を見るような目で、にらんでいる。

 しつこいと言っているからには知っている相手のようだけど、謎の軍団は何も答えない。

 代わりに、手にしている奇妙な銃を、ゆっくりとこっちに向けてくる。

「許さんっ!」

 そんな時だった。

 あいすの右手に、いきなり武器が現れた。

 見た目は、完全にF-2戦闘機そのもの。機首部分に「114」って数字も書いてある。

 それに銃のグリップが付いて、あたかもボウガンのような形になっている。

 まるで早撃ち勝負のように、それを素早く向けた瞬間、戦いは始まった。

 謎の軍団が、一斉に何かを撃ってきた。

 それは、さっき部屋に飛んできたミサイル。

 まっすぐ僕達目がけて飛んでくる。

「うわっ!?」

 思わず、僕は後ずさりようとして転び、尻餅をついていた。

 でも、あいすの銃から、花火のような赤い光が斜め上にばら撒かれると、ミサイルはそれを追って明後日の方向へ飛び、消えていった。

 でも、あいすは怯まず、むしろ迎え撃つように突撃する。

「うおおおっ!」

 銃の機首部分から、光の弾丸がフルオートで発射された。

 棒立ち状態で避けようともしない謎の軍団の1人が、それをもろに浴びた。

 すると、その体が青く染まり、まるでガラスが割れるように光の粒となって砕け散った。

 さらに、あいすのフルオート射撃は薙ぎ払うように続く。

 それに貫かれた謎の軍団が、1人、また1人と砕け散っていく。

 相手も、同じような黒いフルオート射撃で応戦してきた。

 あいすは身を傾けて回避しながら、銃撃を続ける。

 至近距離まで寄ってきた相手にも、零距離射撃で退け、まるで踊るように身をひるがえしながら、銃撃で薙ぎ払っていく。

 負けじと、謎の軍団も一斉に銃撃を集中させる。

 1人が、ミサイルを発射してきた。

 でもあいすは、体操選手も顔負け――いや、それでもあり得ない、ひと跳びで家の2階にまで届きそうなジャンプで、ミサイルを飛び越えた。

 空中でくるりと1回転しながら、再び銃を構える。

「甘いぞ!」

 再び放たれたフルオート射撃が、軍団の1人を砕く。

 それを確認しながら、あいすは堂々と片膝をついて着地した。

「隠れていろ、ユウ!」

 あいすは謎の軍団から目を逸らさないまま、凛々しい声で僕に呼びかけた。

 僕は言われるまま、近くの電柱に身を隠すしかなかった。

 銃撃戦は、未だ続いている。

 一体どうなってるんだ。

 何が何だかわからない、奇妙な銃撃戦が目の前で始まっている。

 テレビで見た事がある歩兵戦闘とは全然違う、弾切れを全然気にしない戦い。

 しかも、ミサイルとフルオート射撃の撃ち合いなんて、まるで戦闘機同士の空中戦だ。

 空中戦みたいな事を人が地上でやっているという、何とも奇妙な戦いだった。

 それでも。

「すごい……」

 あいすの力は、圧倒的だった。

 その立ち回りを見るだけで、空を激しく舞うF-2戦闘機の姿が脳裏に過るのは、やっぱりF-2戦闘機の化身だからだろうか。

 実際には行われていないけど、F-2の戦いって言うのはこういうものなのだろうか――

「――いや、感心してる場合じゃない」

 頭を強く横に振って、冷静さを取り戻す。

 今は、街中で戦いが起きているという異常事態なんだ。

 いくらあいすが人に見えないとは言っても、朝っぱらからこんな事が起きたら大騒ぎにならない訳がない。しかも、僕の部屋は爆破されたんだ。

 今はよくても、すぐに野次馬が集まって――

「あれ――」

 何気なく辺りを見回して、おかしな事に気付く。

 人の気配が、全くない。

 マンションが爆破なんて事件が起きたら、普通逃げ出す人が出てくるはずなのに、最初から誰もいないとばかりに、人がいない。

 そういえば。

 マンションを出る時、普通なら必ずマンションに住む誰かと必ず顔を合わせる。

 でも、さっき逃げる時、1――?

「え――」

 よく見れば、街そのものにも人の姿が見当たらなかった。

 あいす達の戦う音しか響かない街は、不気味なまでに沈黙を保っていた。

 いつの間にかゴーストタウンと化していて、自分達だけがここに取り残されたかのように。

 これは一体、どういう事なんだ?

 いや、そんな訳ない。

 いきなり街から人が消えるなんて、あり得ない。

 とにかく、警察に通報しよう。

 相手してくれるかわからないけど、他に思いつく所がないし、とにかく通報しないと。

 そう思って、僕は辛うじて持ってきていたスマホを取り出した。

 でも。

「……え?」

 画面がおかしな事に気付いた。

 僕のスマホのホーム画面には、アナログ時計が表示されているけれど、その秒針が全く動いていない。

 普通なら時間がずれる事はあっても、止まるなんて事はあり得ないのに。

 これじゃまるで、本当に時間が止まったみたいじゃないか――

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