第36話 終業式





今日は、終業式。


今年度の学校は今日でお終いだ。



先日には部活で軽く挨拶をした。


ギリギリまで転校することを言っていなかったから、皆ひどく驚いていて。

別れを惜しまれたり、少々怒られたりもした。



同じ部活の人が転校するのって、寂しいものなのか。


そうか。



また俺は、間違っていたらしい。



目の中でずっと悲しんでいたのは、寺ちゃんと弘樹だった。

二人には新しい住所を教えていて、手紙でも書くよと言われた。


携帯での連絡も取れるけど、そこはうなずいておく。


俺はきっと、手紙が来たら嬉しい。

それに、こちらからも手紙を出したいし。



あ。

二人の住所を聞くの忘れていたな…。


メールで聞くか。



外から聞こえるサッカー部の掛け声に耳を傾けながら、俺はぼんやりと考え込んだ。


俺は未だに教室に居て、自分の席に着いている。


窓側の後ろから三つ目。

因みに前からも三つ目だけど。



右手で頬杖を付き、左側に広がる運動部の声へと目を向ける。


そんな事を、少し前からしていた。



帰りたくないなぁ。



声にならない呟きが、胸の奥に消えていく。



帰りたくない。

此処に居たい。

春からも、この高校に通いたかった。


そんな事を思っても、仕方が無いんだけどね。



そんなこんなで俺は教室で、うだっている。


因みに、ぼっちなうだ。

他の人と居たら、それこそ泣いてしまいそうだから。



別れ難いって、嫌だなぁ。



深い溜め息を一つ吐くと、教室の後ろのドアがゆっくりと開かれる音がした。






「……崎本……」






体温が一度上がった気がした。


聞き慣れたその声に反応し、俺は振り返る。



「な、なん…で……」



そこに居たのは、藤先生だった。







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