第2話 サンダル
視界にその姿を捉えると、少しだけ自分の頬が赤くなるのが、解った。
美術教師であり、俺の入っている美術部の顧問をしている、この先生。
歳はまだ若くて、三十にはなっていないと思われる。
どうやら俺は、この人の事を、好きになったみたいだ。
「…ん。だいじょーぶです」
「そう。あー、でもそろそろやばいよなー」
途切れ途切れの声で返した俺に、一応頷いた先生。
そして、少し不機嫌な顔をし、俺が閉めた扉を軽く、トントンと蹴る。
その足をチラリと見ると、ボロボロのサンダルが目に止まった。
「先生…靴、替えんとですか?」
「ん?あー、何か面倒くさくって。これでも良いかなーって、思ってきた」
けろりとして言う、先生。
千切れた所を、ガムテープでぺたぺた貼っ付けているだけの、サンダル。
それで、良いんだ。
余りにも適当すぎて俺は、ふはっと笑った。
「こら。笑うんじゃないよ」
「だって…それは、やばかです。替えた方が良かですよ」
「俺は、気にしてないんだから。崎本も、気にしなければ良いだろ?」
意外と適当。
先生は、する事も言ってる事も、めちゃくちゃだ。
それが面白くて。
俺が、ひゃっひゃひゃっひゃ笑うと、べしりと頭を叩かれる。
い、痛かし。
「すっげー引き笑いだよな。吸え、死ぬぞ」
「は、そんな事、言わんでください…。余計苦し…!」
そんな事を面白そうに、先生が言う。
何かもう、笑いが止まってくれない。
俺は、必死に深く呼吸をした。
そうしていると、次第に落ち着いてきて。
一息吐いた俺は、涙が滲んだ目元を拭った。
「…はぁ…。疲れた」
「はい、お疲れ。今日は、何すんの」
「んー…。何しよう…」
我が校の美術部は、とても緩い。
緩いが上に、する事は特に無い。
いつも皆、喋って過ごしているか、画用紙に自由に描いているか。
その、どちらかだった。
そんな感じだから、美術部に入っても、来なかったりする人も多い。
…俺は、毎日来てるけど。
そんな俺に、先生は少し迷いながら呟いた。
「…崎本さ、高美展に出す絵を、描いてみるか?」
「…え?」
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