第3話 高美展







「高校美術展のこと。待ってね、確かパンフレットがここに…あったあった。これだよ」



そう言って先生は、本棚から取り出してバサバサと何冊ものパンフレットを机の上に並べた。


この美術室は、普通の教室よりも一回り小さくて。

でも、黒板はあるし机も椅子もあって、あまり普通の教室と変わらない。


あ、でも後ろ一面にある大きな窓。

そして、角度の変えられる机。

この二つは、違う。特徴は、それくらいだ。



俺は、パンフレットを手に取って、パラパラと捲って見る。

気になったページをじっと見つめていると、それが具象画なのか抽象画なのか、横から先生が教えてくれた。


人物等をしっかりと描いているのが、具象画。

色彩等で表現しているのが、抽象画。

どちらも綺麗で、思わず見とれた。






「…せん、せ。俺、抽象画が描きたいです…」






しばらく悩んでから、俺はそう先生に告げた。



「珍しいね。大体の子は、具象画を描きたがるのに」



先生は、目を少し見開いて、そう言った。


俺は、この絵に先生への気持ちを描きたかった。


だから、具象画よりも、抽象画にしたくて。

言葉に出来ない感情を、全てキャンバスにぶつけたい。


…そんな事を本人に言える訳もなくて、俺は笑って曖昧に誤魔化した。




どういうスタンスで描くのかも決まり、パンフレットを片付けていると。

入口の扉が、ギギ…ッと鳴り、ゆっくりと開いた。



「失礼致します…」



ぺこりとお辞儀をしながら、入ってくる男子生徒が一人。



「あ、寺ちゃん!」


「寺島君、こんにちは」



俺と先生が、ほぼ同時に声をかける。

それに寺ちゃんは、またお辞儀を返した。





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