第4話 猫の餌






寺ちゃんこと寺島君は、俺と同じ高1で。

クラスは、確か隣だった筈。


スラリとした体型で、肌は少し焼けている。

にこりとも笑わない彼に、俺は最初の頃、正直怯えていた。

けれども







「崎本君、校内に猫が居ましたよ。見ましたか…?」


「ほんと?俺、見てない」





話してみると、普通に良い人だったのだ。


声も大きくないし、ゆっくりと出てくるその言葉は、俺を落ち着かせてくれた。


そんな彼に、俺は直ぐに懐いた。本当に、直ぐに。



因みに、寺ちゃんというのは、俺が付けたあだ名ではない。


寺ちゃんと同じ中学だった女子が、そう言っているのを聞いて、『寺島』よりも『寺ちゃん』を、先に覚えてしまって。


それが、俺の中で定着してしまい。

以来彼の事は、そう呼んでいる。



「あ、知ってる。こっちの校舎の入口の所でしょ?」


「そうです…。数日前から、住み着いているようで」


「誰かが餌をやってるんだろうなー」



俺達の会話に、先生も入ってくる。

良いなぁ。俺も、見てみたい。


あ、明日煮干でも持って来ようかな…



「崎本君、餌持って来るなよ?」


「う…」



まさに、俺の頭の中を読んだかの様な、その言葉。

俺は、すぐさま先生から、釘を刺された。



『崎本君』



そう呼ばれた事に、少しだけ気持ちが沈む。

いや、寺ちゃんも『寺島君』って、呼ばれたんだけど。





…二人きりの時は、『崎本』って呼び捨てなのになぁ。





俺は、先生の言葉に曖昧な返事を、返した。







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