第6話 一番後ろの右端
その日の部活は、雨が降っていた。
「こんにちはー・・・」
重い扉を開けて、中を覗きつつ俺は入っていく。
雨の日は床が湿気で濡れているから、転ばないように力を入れながらこの扉を開けるのは、なかなか大変だ。
「こんにちは」
すぐ近くで聞こえた先生の声に、俺は思わず声を上げそうになった。
先生、居たんだ…。
彼はいつも通りの隣の準備室ではなくて、今日は美術室の席に着いていた。
一番後ろの右端。
いつも俺が使っている席だった。
「雨酷かっただろ?」
「そですね…ちょっと濡れました」
背中に広がる大きな窓を見つつ先生は尋ね、俺も硝子に伝っては落ちる水流を見ながら答えた。
「でも、雨は好きです」
「珍しいな…俺もだよ」
「……ッ、ほんとですか…?」
先生も、俺と同じで雨が好き。
その事実が、とてつもなく嬉しい。
周りには、雨の日を嫌う人間ばかりだった。
どんよりとした天気。
濡れてぐしゃぐしゃになるのも、嫌われる理由の一つだろう。
それでも、俺は雨が好きだった。
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