第5話 換気扇








美術室に居るのは、先生と寺ちゃんと俺だけ。

他の人達は、まだ来ない。


この学校は、特進科と普通科とスポーツ科に別れていて。

美術部員には、特進科の生徒が多い。

そして、その特進科は放課後にある課外授業の後に、更に一時間の自習が、義務付けられている。

だから、彼らが来るのは、あと一時間後。


俺と寺ちゃんは普通科だから、課外が終われば、部活に顔を出せる。

けれども寺ちゃんのクラスは、課外が延びる事が多い。

だから、俺が先生と二人きりになるのはもはや、最初の十数分の日常となっていた。



「寺島君も、高美展に作品出さない?」


「…高美展ですか?」


「そうそう。折角だし、何か描こうよ」


「…なら僕は、換気扇を描きます」



換気扇!


思わず、俺と先生は声を上げた。

渋い!チョイスが渋いよ、寺ちゃん!



でも、そういえば寺ちゃんは前にも、キャンパスに換気扇を描いていた。

この教室の、右側の壁の一番後ろにある、それ。

もうボロボロで、何故そこにあるのかも、解らない。


それの前の席に陣をとって、一人黙々と描いていた。

…換気扇、好きなのかな?



寺ちゃんの絵は、小奇麗じゃない。

汚れもそのままある、そんな絵を描く。


俺は、それが好きだった。

薄っぺらくない、厚みと温度の感じる絵。

彼は、またそんな絵を描いてくれるのかな。



…俺は、どんな絵を描こう?



そこからは、絵のアイデアを考えるだけで。

あっという間に、時間が来た。



「お疲れ様でしたー」



部員皆でお決まりの挨拶をして、次々と出て行く。



「はい。お疲れ様でした」



気をつけてね、と見送る先生。








俺は、いつも目を見れない。






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