第33話 帰り道
その後、いつも通り「お疲れ様でしたー」と挨拶し、美術室から退出。
最近、先生の目を見て言えるようになったのは、俺の小さな進歩だ。
「…崎本君、あの話って本当なんですか?」
「…ん」
帰り道の別れ際。
立ち止まった寺ちゃんが、伏し目がちに俺へと尋ねた。
俺がこくりと頷くと、ゆらゆらと悲しそうな瞳がちらりと伺える。
「…寂しくなります」
「…ごめんね。そんなに遠くなかし、また遊んだりしたいっちゃけど…」
「それは勿論…!」
ぱっと顔を上げた寺ちゃん。
俺はそれを見て、へらりと笑った。
吐く息が、もう白い。
すっかり寒くなってしまったなぁ。
あまり立ち話をしていると、お互いに身体がすっかり冷えてしまう。
「良かった…。んじゃまたね」
「はい。また明日」
手を振る為にポケットから出した手が寒い。
俺は、早足に家へと帰った。
「…ただいまー」
「おかえり」
玄関の扉を開けた途端に包まれる温かい空気。
家の中は、暖房がきいていてぬくぬくしている。
俺は直ぐにもリビングへと入り、ストーブの前にしゃがみこむと、手をかざして暖を取った。
ぶるりと震える身体。
うあー、あったまる…。
「寒かったでしょ」
「うん」
「ご飯出来てるから、着替えといで」
「うん」
「…荷造りは進んでる?」
「…うん」
この町が寒さから抜け出した頃。
俺は、もうここには居ない。
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