第32話 優秀賞
「優秀賞おめでとう!」
「ありがとうございます…!」
満面の笑みの藤先生。
ぱぁっと花が咲いているみたいで。
美術室に居る皆も、まるで自分の事の様に喜んでくれる。
俺は、自分の頬に熱が集まるのが分かった。
正直、まさか賞を貰えるとは思っていなかった。
夜に浮かぶメリーゴーランドの様な温度の木をデフォルメし、それを抱き込む様に白いベールを描いて。
その白は、砂を混ぜたから触っても楽しい。
それ等をスプレーでふわりと。
先生が居たから生まれた絵だ。
キラキラしてて温かい藤先生。
この絵は全部、全部彼のイメージだった。
…そんなことを言ったら、完璧引かれるから言わないけど。
皆が何時もの様にお喋りに花を咲かせる。
俺も寺ちゃんも、今日は画材を出さずに席に座り、ゆったりとすることに。
「崎本君、本当におめでとうございます!」
「ありがとう!」
ここにも居た、ぱぁっと笑う人が。
寺ちゃんが何やら興奮気味に話しているが、俺はぽやぽやとしていて、正直あまり内容が入って来ない。
それを彼も気づいたらしく、笑った後に何も言わず俺の手を握っては、ぶんぶんと振る。
俺はヘラっと笑って、もう一度お礼を言った。
さっきから視界に入るのは、やっぱり藤先生。
結婚したって、好きなもんは好き。
『結婚』とか、自分で言って自分でへこむけど。
あー・・・、何時から付き合ってたのかなぁ…。
美人なのかなぁ。
結婚式、もうしたのかな。したよなぁ。
どんな顔して、どんな声で、どんな風に触れるんだろう。
「…ふはっ」
うわぁ…俺、全然諦められてないわ。
もうこれは駄目だ。
俺は今、人生で一番人を愛している。
「そこ、にやけてないで帰る準備をしろって」
「…えっ?」
いつの間にか、もう部活終了時間になっていたようで。
寺ちゃんも皆も、鞄を手に取り始めている。
「ごめんね、何回か声をかけたんだけど…」
申し訳なさそうな寺ちゃん。
いや、貴方は全然悪くないです!
と云うか、全く気付かなかった俺って一体…。
「暗くなったから、今日から終了時間を30分早めるって言っただろう…。どんだけぼーっとしてるんだか」
「わわっ…」
呆れ顔の先生が、俺の頭をくしくしと撫で回す。
それだけで嬉しくなってしまうんだから、現金なものだ。
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