第二章

第13話 変わる距離







「元気ないですね」



今日も四つの机を占領しながら、紙のパレットの上で絵の具をぐちゃぐちゃしていると。

換気扇の前を陣取っていた寺ちゃんが、ぽつりと言った。



「俺…?」


「うん。崎本君、元気ないです」


「そんな事ないよ」



へらりと俺が笑うけど、寺ちゃんは全く納得していない様で。

むすっとして不満気な目を、こちらに向けてくる。


…寺ちゃんでも、そんな顔をしたりするんだ。

あまり表情豊かではない彼が、そんな顔をする事に、俺は少し感動してしまった。



そんな俺に、彼は言う。






「先生と、何かあったんですか?」





「え…」



問題点を、どストレートに一直線。

図星。

まさに図星を指された俺は、開いた口が塞がらなかった。



「え。な、な…」


「…やっぱり。崎本君、今日は何だか藤先生と、ギクシャクしています」


「うそ…」



寺ちゃんの言葉に、俺はショックを隠せない。

そんなバレバレな態度を、取っていたのだろうか。

うわぁ、何だそれ。失礼すぎる。


激しく後悔。

思わず、絵の具がべったりと付いた手で、自分の頭をぐしゃりと掻き乱しそうになった。


いや、辞めたけど。



ギクシャクしてしまうのには、心当たりがある。

…ちょっと。ちょっとだけ。


これは俺に原因がある。





実は、嫉妬というものをしているのだ。






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