第16話 解らない








時々、先生がわからなくなる。


それは、俺が馬鹿だからなのかは、解らないけど。



——「崎本は女子と絡むのなんか、10年早い」——



崎本。

初めて、先生が皆の前で俺を、『崎本』と呼んだ。



どうして、俺は怒られたんだろう。

どうして、先生は怒ったんだろう。


別に、先生の元から女子が離れた訳ではないのに。

ましてや、俺の所に来た訳でもないのに。






理由の解らない事が、こんなに恐ろしいとは思わなかった。






ねぇ先生。


好きになってくれなんて、言わないから。

どうか。

どうか、こんな俺を、嫌いにならないでください。



胸の内で、想いを溢れさせると。

そこが、じくじくと痛むのが、解った。


そして、そのままテスト週間に入ってしまい。

二週間。

短いようで長いその日にちを、俺は先生と会わずに過ごした。



今日は、久しぶりの美術室。

いつもと同じ、重い扉。


ゆっくりと開けると、そこの空気が湿気ているのを、感じた。



「こんにちは」



聞こえてきたのは、先生の優しい声。

あの時とは、違う声。



「…こんにちは」



突っかえながらも、俺は返事をした。


いつかの様に、先生は一番後ろの席に座っている。

その背中に広がる窓の外では、雨が降っていた。





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