第17話 マグロとキラキラする瞳








俺の並べた机の塊の隣に和紙を広げる先生。

今日も絵を描くみたいだ。



「…先生は、何ば描くとですか?」


「マグロの一本釣り」


「マ、マグロ」


「美味いよな、マグロ」


「そですね…」



相変わらず、先生の言葉は面白い。


どうして、好きになったのか。

どこが、好きなのか。


別に、何かときめく様な出来事があった訳では無い。

ドラマチックな事なんて、起こってもいない。



ただ、この人の思考回路が、どうしようもなくツボなのだ。



非常勤教師の彼は、授業の無い日まで学校に来る必要が無い。


それ故に、授業の無い金曜日は、部活を休みにして。

通勤曜日を減らすような人で。



まだ履けるから。

新しく買い替えるのが、面倒くさいから。


そんな理由で、ずっと同じサンダルを履くような人で。







絵の事になると、瞳がキラキラする人だった。






誰にも、理解されなくても良い。

誰にも、応援されなくても良い。


先生に、知られなくても良い。

先生と、結ばれなくても良い。



でも、好きでいる事だけは、辞めたくなかった。



自分本意で、身勝手で。

我ながら、馬鹿みたいな恋をしていると思う。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る