第10話 砂の絵の具






先生は、その砂を絵の具にぐるりと混ぜた。


粒の細かい砂は、それでもザラザラとした凹凸を絵の具の中に見せる。

ふわりふわりと体積の増えていくそれ。


思わずじっと見つめてしまった。



「砂入れると、塗った時に面白いんだよ。崎本もやるか?」



先生は俺を見ずにそう言うと、筆で小さなキャンバスに絵の具を伸ばす。


紺と白がマーブル状に混ざったままの色が、すっと鮮やかに線を引いていく。


先生の絵は、いつ見ても綺麗で同時に気持ちが良い。

あれだ、流れ星の感じと似ている。

気がする。



「…はい!」



ぱっと自分の頬が色付くのが分かる。

こんな面白いこと、ワクワクしない訳がない。


ザラザラとしていて少し厚みの出る、砂入りの絵の具をキャンバスの下部に、刷毛でザッザッと撫でていく。



元々描いていた下の絵の具と、ぐっちゃぐっちゃと混ざっていくのも、また手が止まらない事の一つで。


一秒前の絵を取り込んで、また作り出す色。





うわぁ、楽しい。


何だこれ。楽しい。






抽象画という名前に甘えて、思うがままに進めていく。



ふと顔を上げると部活終了の三十分前で、寺ちゃんも他の人達も、美術室にいた。


い、いつの間に?

熱中し過ぎていたのか、全く気づかなかった。



それにしても、砂って良い。


新しい発見に、俺は小さく笑みを零した。





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