第9話 カンカンの中







先日黒のベースを塗っておいた50号のキャンバスを、準備室からゴトゴトと持ってくる。


2×2で4つの机を引っ付けたところに、それをヨイショと置いた。

ふむ。でかい。


俺はこんな大きな物に描いたことがなかった。



「俺も、今日はこっちで描こうかな」



そう言った先生は、俺の隣の席に小さなキャンバスと絵の具一式、そしてクッキーの入っていたであろうカンカンを乗せる。


とりあえず、カンカンが気になったけど何となく、口に出すのは気が引けた。



「先生は何ば描くんですか?」


「海っぽいやつ」



ぽいやつ、か。

海ではないのか。


へぇ。ふむ。ほう。



パックから出した絵の具をキャンバスにそのまま垂らしていく。


それは水溜りを作ったり、一筋の光になったり。

将又、水玉のように点々と。

不規則に色付くそれ。

その上を右手は刷毛で、左手は素手でなぞっていった。







無音の中で浮かぶ色彩が、堪らなく気持ちいい。






そんな中、隣でカパッと音がした。


はっとなってその音源を見ると、どうやら先生がカンカンを開けたようで



「…砂?」



その中には白っぽいサラサラとした砂が、沢山入っていた。






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