第30話 大好きだから
「……ははっ…」
伏せられる顔。渇いた笑い声。
先生は左手で前髪をくしゃりと掴んだ。
予想とは違う彼の姿に、俺は戸惑った。
俺が明るく振る舞えば、先生も嬉しそうな顔をして話をしてくれると思ったのに。
どうして?
俺の笑った顔、変やった?
変な気ば使わせよる?
俺じゃ先生ば笑わせられんと?
思わず先生の白衣の袖を掴んだ。
真っ白なそれに、青と黄色が滲む。
しまった…!
そういえばさっき、絵の具をべったりと触ってしまったんだっけ…。
俺は汚してしまった白衣から、ぱっと手を離した。
「ご、ごめんなさい…」
「え?ああ…大丈夫だよ」
ちらりと伺うと、先生は一瞬きょとんとした顔をし、自分の袖元を見て納得したように笑う。
「元々汚す為に着たようなもんだし」
「………」
「……えーと…」
只でさえ、己の不甲斐なさに溜息を吐きたくなっていたのに、洋服まで汚しちゃって。
俺は、すっかり落ち込んでしまった。
困った先生の声が聞こえる。
「崎本?何でそんな顔してんの…」
ふわりと頬を撫でられる。
温かい手。
先生の表情も、声も、全部が温かい。
「崎本…笑ってよ。大好きなんだから…」
…え?
呆然と彼を見詰めると、同じく目を見開き、口元を手で覆った藤先生がいた。
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